3 | ナノ
その顔見たさについ
「鉛筆は尖ってるか?消しゴムは?時計は持ったか?あ、あとカイロ、それにマスクも」
「るせーよ、アンタが慌ててどうすんだ。落ち着け」
「あ、ああ、悪い」
目の前ででかい図体に似合わずわたわたしてんのは一つ上の綱海だ。普段どっかり構えてるやつがこうも慌ててるのはなかなか面白い。
「あとほら、お守り!」
「はぁ?んなもん…」
「去年くれたろ?俺もなんかしてやりてーなと思ってよ!勉強は教えられねぇし」
「…ども」
1つ上なのに勉強教えられねぇってのがなんか悲しい気がするが笑ってるから気にしないでおいてやろう。仕方なく受け取ったお守りは去年俺が上げたお守りと同じ色だった。
「お揃いだ!」
思わず吹き出してしまう。なんだよ、お守りがお揃いって。近くの神社で買ったんだから俺らに限らず受験生皆お揃いじゃねーか。でもま、そういう風に胸を張るアンタは可愛いと思う。
「あーでも心配だ」
「なにがだよ」
ううんと唸ってから綱海がふわふわした髪を掻いた。桜の色。なんつーおめでたい頭だと思いつつも縁起がいいからこっそり担がせてもらおう。受かりますように。
「や、お前頭はいいけど目つき悪いからさーカンニング疑惑とかさー」
「俺をなんだと思ってんだよ」
呆れて睨む気すらしない。カンニング疑惑なんてたまったもんじゃねぇ、ってかカンニングしなくても入試くらい簡単だっての。
「よし!」
「何」
突然閉じていた目を開けて、組んでいた腕をほどいて綱海が力強く声を発した。驚きで肩が跳ねる。
「不動が受かりますように!」
次の瞬間この季節に不似合な健康そのものの浅黒い肌が近づいてきて唇に触れる。少しでも温かくて嬉しいだなんて思ってしまった自分をぶっとばしたい。
「テメェ…」
「これで大丈夫だ!明日頑張れよ!」
綱海が巻いてるマフラーを引っ掴んで頭を無理矢理引き寄せる。やっぱり温かい。触れた唇を舌で舐めてから笑ってやると綱海が口を魚みてーにぱくぱく開けたり閉めたりを繰り返した。
「はは、アホ面」
「…あー、やられた」
「俺が受からねぇわけねーだろ、そもそも」
ま、それもそうだなと綱海が豪快に笑う。もう少し焦った顔とかみてーな、なんて。
「アンタが待ってる高校だし失敗なんかしねーよ」
にやりと笑ってそう言ってみせた。ちょっと焦ったように顔赤くして笑う綱海が見たかったのに気づいたら腕の中だ。何が起きたって言うんだよ。
「……入学したら毎日たっぷり愛してやっからな!」
「…黙れ」
ああ、してやられた。睨みつけるとまた顔を近づけてきたから悔しくて鼻にかみつく。
「いってぇ!!」
「ばーか!エロ大魔王死ね!」
「おまっ、なんだよそれ」
腕の中から逃れて罵声を浴びせると綱海が鼻の頭を押さえながら苦笑する。あー馬鹿野郎顔が熱い。
「不動!」
「あん?」
「なんくるないさ!」
明日は頑張れよと親指を立てて綱海が笑う。春色の髪が揺れた。俺も親指を立てる。
アンタが待ってんだ、落ちるわけねーだろバーカ。
お久しぶりです…!久々の綱不…いやもう久々すぎて誰これ…。実は昨年の受験シーズンに綱海が受験生バージョンを書いたので、じゃあ今年はあきおで…と。そういうわけです、はい。これからのんびりではありますがリハビリもかねて頑張って書いていこうと思いますのでよろしくお願いいたします。
20120209
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