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ヴァートにみる


ある所にそれは真っ黒な猫がおりました。気高い彼はどんな他の猫とも馴れ合いませんでしたし、まして人間に媚びを売ったりするようなこともありませんでした。薄暗い雰囲気を好んで一度たりとも路地裏を出たことがありませんでした。建物の隙間から顔を覗かせるとビー玉のような目が二つだけ浮かんで見えるようでした。

「ほら、大丈夫だ。怖くないぞ」

男が一人微笑んでしゃがみ込みました。その手は猫を呼び寄せるようにゆらゆらと動きます。するとどうでしょう、今までどんな人間がどんなに美味しそうな食べ物や温かそうな毛布を片手に持ってきても見向きもしなかった猫が首をゆったりとそちらへ向けたのです。やはりそこにはビー玉が浮かんでいるようでした。

「おいで。あきお」

男がもう一度手招きしました。猫はにゃあと一声鳴いて歩みよると前足を投げ出して男の膝に置きました。ぱちりと瞬きをして男と猫の視線が交わると男はただただ泣き出したのです。その口から零れひたすらに呼ばれる名前に応えるものはいません。代わりに猫はその綺麗な緑の目を細めてまた一声だけ、なくのでした。














あとがき

にゃんにゃんな日と聞いてイチャラブ書くつもりがうっかりこんな。てへ。文才が欲しい今日この頃でござる。
20110222




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