目の前に広がる新しい景色


今日はバレンタイン。
昨日徹夜して、お菓子を作ってきた。
みんなに、悠太に。
みんなとは幼馴染みで、なんだかんだで毎年作って渡してる。
今年はいつもの4人に千鶴と茉咲を加えて6人分作った。
でも、ホントはそんなの建前で、ただ悠太1人に渡すのができなくて、そのカモフラージュのために毎年全員に渡してる。
こんなこと言ったらみんなに申し訳ないんだけど…。

思えば悠太のことは陽だまり幼稚園の頃から好きで、いつも悠太にくっついて行動してた。
双子の片割れの祐希と、春ちゃんもだいたい悠太にくっついていることが多くて、そのことで小さいときは祐希ともめたこともある。まぁ単に祐希が離れろ離れろ言うから私が怒ったり泣いたりしただけなんだけど。


でも、その悠太には一瞬だったとはいえ彼女がいた。
私と悠太と同じクラスの高橋さん。
悠太と高橋さんが付き合ってたのはほんの数日だったけど、私にとってその数日は何ヶ月も何年にも感じられた。
その期間は無意識のうちに悠太やみんなのことを避けちゃうし、酷いこと言っちゃうしで、最悪だった。



前を歩く5人を見つけて声をかけようとしたときに聞こえたあの子の声。

「春くん、悠太くんっ」
『!』

彼女が悠太と春ちゃんに渡したのは5組の女子全員でお金を出して買ったバレンタインのお菓子の詰め合わせ。
私も5組だからお金も出して買い出しに行った。でも渡す人に選ばれたのは幼馴染の私ではなくて悠太の彼女だった高橋さん。
悠太が女の子から何かを貰っているのを見るのが嫌で教室を出ていたのに、どうしてこんな場面に出くわすんだろう。
せっかく、悠太に渡そうと思ったのに……

気付けば私は走ってその場を立ち去っていた。





朝から時間が経って、今はお昼休み。場所は人気のない空き教室。私の手には紙袋。中には1つチョコレートの箱が入ってる。一緒に入れてあった5つはお昼休みまでにそれぞれ配り終えていてそこにはもうない。

『はぁ…』

ため息が静かなその場所に妙に響いた。そっと目を閉じるとジワジワとやって来る睡魔。このまま何もかもがこの教室みたいに静かに通り過ぎていけばいいのになぁ…
でもその願いは叶わず、ドアが心地好い静寂を打ち破って開いた。


「…まり、なにして、るの?」

こんなとこで、と息も切れ切れな彼はどうやらここまで走って来たらしい。悠太は教室に入ると器用にも振り返らずにドアを閉めて、こちらにやって来た。そして壁に寄り掛かって座ってる私に視線を合わせようとしゃがみ込む。

「みんなには配っておいて、俺だけ渡さないなんて酷いと思いませんか」
『……』

そう言う悠太はいつも表情を崩さないのに珍しく少し眉間にしわが寄っていて、怒った瞳で私を見る。
それに驚いて私が下を向いて黙っままでいると悠太は目を伏せ、小さくため息をついた。


「朝からずっとまりのを待ってるんだけど」
『っ、…それって…?』
「好きですまり、付き合って下さい」

顔を上げた瞬間目一杯広がる悠太の綺麗な顔と、唇に触れた柔らかい温もり。それはすぐに離れていった。そして言葉を発する間もなく抱きしめられる。




目の前に広がる新しい景色
(ゆ、た…)
(しばらくは離さないのでそのつもりで)
(ぅ、ぁう…///)
((ぎゅーっ))


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