変態の定義


「○○ちゃん、」

髪の毛を掴まれて後ろに引かれる。
掠れた甘くて優しい声。
けれど、その声に反して髪の毛を掴む手の力は決して優しくはない。
髪を引かれた事で木村さんの固くなったそれが口から抜けていく。

「零してるよ」
「ごめんなさい、木村さん…」

ベッドに腰掛ける木村さんの足の間から顔を見上げると、目尻の下がった優しそうな瞳と目が合った。
一見、普段となんら変わらない様に見えるその瞳の奥は暗く濁っている。
嗜虐的な欲求に駆られている時に見せる顔。
そんな木村さんを感じる度、私の背筋にぞくぞくと快感が走ってしまう。

飲みきれずベッドの上に零れてしまった精液とも唾液ともとれるそれを、以前彼に教えてもらった通りに目を合わせたまま舌を伸ばして舐め取った。

「いいよ、それ…凄く可愛い」

彼の目が満足げに細められる。
続けて、と後頭部を軽く撫で付けられて再び口に含んだ。

「いつになっても上手くならないね」
「ぅ、んむ…っごめ、んなさ……」
「そんな所も可愛いけど、ね」

喉の奥までくわえ込んで必死に顔を動かすけれど、木村さんの表情は穏やかなままで一向に達する気配はない。
せめて手を使えたら、と思うけれど両手を後ろで縛られていて叶わない。
私の初めては木村さんだった。だから木村さん以外の人を知らないし、木村さんを満足させられるテクニックも知らない。
…この、少しSMがかった行為が普通なのかどうなのかも。

「疲れた?」
「ん、……」

ずっと口を開けていたから顎が痛くて思うように動かせない。
結局、口だけで木村さんをイかせられなかった。
口を離しながら素直に頷くと、わざとらしい程に優しい手つきで頭を撫でられる。
私の唇を伝う飲みきれなかったそれを親指で優しく拭い取りながら木村さんは穏やかに微笑んだ。

「お仕置きだね」

普段落ち着いていたり普通な人ほど、意外にいつもの姿からは想像もつかないような変貌ぶりを見せたりする。
私は木村さんもきっとそういうタイプの人なんだろうと思っている。
両腕を後ろに縛られたままの私をベッドの上に引き上げ仰向けに寝かせると、木村さんはその上にのしかかった。

「…どうして欲しい?○○ちゃん」
「優しく、して欲しい…です」

唇が触れそうな距離まで屈まれて、質問に答えながら思わず目を伏せる。
スカートを脱がせストッキングを器用に脚から抜き取りながら木村さんが鼻で笑った。

「嘘つき」

酷くされたいくせに、と続けられた言葉を私は否定出来なかった。





END


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