懐かしい匂い




あれからもう一時間はたっているだろう。
外はまだ雨が降っていていつも以上に薄暗い。
「だいー、これの 5巻ってどこ?」
「そこの棚にあるだろ」
「んー」
大輔のうちにきてこのマンガを読むのは初めてじゃない。でも何回読んでもおもしろい。
「マンガねーよ」
「あるって」
「ねーよ。…あ」
後ろから大きな手が延びてきて奥に隠れてた5巻を取った。
「あ、ありがと」
四つん這いの体勢からベッドに寝転がろうとしたが動けない。だっておれを覆うようにして後ろに大輔がいる。
「だい?」
返事はない。聞こえてないのか?
二回目はさっきよりも大きく呼んだ。
「だいすーー「聞こえてるよ」

ーーじゃあなんでどいくれないんだ。
部屋には雨音と時計の秒針のおとだけが響いている。
俺もだいも一言もしゃべらない。
大輔の目線を反らそうとして窓を向こうとした。
すると頭を捕まれ、大輔の顔がだんだん近づいてきた。表情はいつもの大輔なのに雰囲気がちがう。
そんなことを考えているうちに鼻先と鼻先がくっつく。なんか怖いー…。いつもの大輔じゃないみたいだ…。
「だ、だい、!どいて!」
慌てて喋った俺の声は震えていた。
懇願するように大輔の目を見る。
一瞬視界が暗くなったかと思うと、唇に暖かさを感じた。
「ふっ!んんっ…」
俺、大輔にキスされてる!?


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