観察日記その後
元親視点
捏造捨て駒注意
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○月□日 (曇り後晴れ)
オクラの"就"に実ができた。
ああ、こいつの名前は結局"就"になった。成り行きで。成り行きってなんだよ。
まあ兎に角、明日辺りが収穫時か、と思っていたら毛利から使者が来て元就からの言伝てを持ってきた。
たった一言、「来い。」とだけ。
千里眼でも持ってんじゃねぇのか、あいつ。
つか相変わらず偉そうだなおい。












「おい、来てやったぜ。」
次の日、言われた通りに安芸まで出向いた所、驚いた事に智将は港で待っていた。
今日は鎧ではない。
これがオクラの力か。どんだけ気に入ったんだ。
「ふん。」
わざわざ出迎えに来ておきながら元就の返事はこんなかんじだ。
「相変わらずだな元就さんよぉ。」
と言えば、
「粗野な海賊に対する礼儀など持ち合わせてはおらぬ。」
予想通りの返事。
「其より日輪信者はどこぞ。」
…オクラしか見えていやがらねぇ。
「…ここで広げるもんでもねぇだろ。」
一先ず城行こうぜ、と促すと一つ頷いて「付いてくるがよい。」と踵を返す。
今日は機嫌、良いんだな。









「ふむ、本当に上向きなのだな…」
部屋に居るのは俺と元就、それに元就の腹心…確か福原貞俊。
元就は新しい玩具を与えられた子供の様に鉢植えのオクラを観察している。
表情は殆ど変わらねぇけど。
「どうやって食いてぇ?」
尋ねればオクラから目を離して首を傾げた。
「どの様に食すのだ?」
おお、智将にも分からないことがあんのか。
「食ったことねぇのか。」
「我の膳にこやつが出たことはない。」
「何でまた。」
元就とか真っ先に食いつきそうじゃね?日輪よwwwって。
「小賢しくもこやつらが我に気を遣ってのことよ。」
「は?」
小賢しく気を遣う?
福原が苦笑している。
「代々のことぞ。」
…あぁ、納得。あの鎧な。つか兜な。頭に気ぃ遣って出さねぇのが暗黙の了解ってやつか。
「悪ぃな、持ってきちまって。」
「よい。」
お前に言ったんじゃなくてそこで苦笑してる福原に言ったんだけどな。
…いいか。










「厨房借りるぜ?」
俺は綺麗に片付けられた厨房に立っていた。隣には元就と福原。
武将が二人も厨房に立つったぁ中々見られる光景じゃねぇよな。
「揚げ物、でございますか。」
俺の手元を見つめていた福原が呟く。
「おう。これが一番美味ぇんだぜ。」
揚げたてを皿に盛る。
「ほら、食ってみろよ。」
「ふむ。」
元就は箸で揚がったオクラを摘まむと
「福原。」
を呼んだ。
「は。」
進み出た福原の口に元就はオクラを突っ込む。
「美味しゅうございますよ、元就様。」
なんだ、こいつが楽しみにしているものを人に先にくれてやるなんて珍し「そうか、毒味ご苦労」…くなかった。









「おい元就、いくらなんでもそりゃねぇだろ。」
俺がお前に毒を盛るって?しかもそう思って腹心に、仲間に食わせたのかよ?
思い切り睨み付けてやるが元就は動じない。ムカつくくらいに落ち着いた顔。
「おま「元親殿。」
一触即発の俺たちを福原が止めた。
「止めるな福h「元就様、後は私にお任せを。どうぞお部屋へお戻りになりお休みください。」
「うむ。」
これ幸いと(俺にはそう見えた)厨房を後にする元就。穏やかな笑顔で見送る福原。
…もしかしてあそこで怒っちまった俺の方が間違ってたか?自信なくなってくる。
混乱している俺に福原が声をかけた。
「元親殿、お手伝い願えますでしょうか。」
「…ハイ。」
有無を言わせない笑顔。
普段穏やかな人の満面の笑みって、怖い。






「お前さぁ、」
「はい。」
手を動かしながら話しかける。
「何であんな主に支えてるんだ?」
あんな、自分の腹心をあっさり毒味に使っちまうような。
俺にはできねぇ。そんなことしねぇ。
「それは少し違いますよ元親殿。」
「違う?」
「あれは、元就様なりの褒美のおつもりなのです。」
「褒美ぃ!?」
あれがか!?
「あまり感情表現がお得意でないだけです。今だって元親殿が毒を盛るだなんて思っておられません。元就様から賜り物、しかもご本人がお召しあがりになる前にとは、私も幸せ者ですね。」
…曲解してないか随分。少なくとも俺が知らない元就だな。
あれが褒美だとしたら…不器用っつか天の邪鬼にも程があるんじゃね?
「元就様はお優しいのですよ。そして人に優しくされるのが苦手でいらっしゃります。例えば先日の雨の日、私が「福原。余計な事を言うでない。」









「これは申し訳ございません、元就様。」
厨房の入り口に元就が立っていた。顔は丁度影になって見えない。
元就お前いつからそこにいたんだよ。
先程の会話を思いだしぞっとする。聞かれてたら間違いなく「焼け焦げよ!!」の刑だろ。
「福原、茶器の用意をせよ。」
「はい。」
と思ったら存外静かにそう命じただけだった。
命じられるがままに茶器を用意し盆に載せて厨房を出かかった福原がちらりと俺を振り向いて、満面の笑みで「ね?」というように首を傾げた。
こいつ…主君がそこに居るのが分かっててあんな話しやがったな。
主があれなら部下もしたたかだな。
つまりなんだ、今のは元就の照れ隠しか?
…分からねぇ。
「では、茶室の支度をして参ります。」
「うむ。」
元就にそんな事を言ってから、俺に向かって「また後で。」と口を動かしたのを俺は見逃さなかった。
この主従…疲れる。









「…」
「…」
俺は無言のままオクラを揚げている。
元就はまだ入り口に立っていていて表情が分からない。
「…なぁ。」
「…何ぞ。」
「福原っていい部下だな。」
何の気なしにそういえば元就が微かに身動ぎした気配がした。
「やらぬぞ。」
「何を。」
今俺何か欲しいって言ったか?
「福原よ。」









「…」
理解するのに時間が掛かった。
今、こいつは、俺が福原を欲しがってると思ったのか。
しかも即効で「やらん」と。
「なっ…んぞその顔は。」
その時の俺の顔は相当にまにましてたんだろう。俺の顔を見て元就は失言に気が付いたようだった。
「へ、兵など所詮捨て駒よ!!」
「へいへい、照れ隠しなー」
「違うと言っておろうが!!焼け焦げよっ!」
「あっちいなおい!!危ねぇだろ!!油に引火したらどうするんだよ!!」
「是非もなしっ!!」
「お前それキャラ違うっつの!!」
元就は肌が白いからよ。
顔が少し赤くなってるのがよく分かった。なるほど、こういう所もあるっつーことな。
意外と可愛いとこ、あんじゃねーか。










○月◎日(晴れ)
人って近付けば近付くほど知らない顔が見えてくるよな。
それってすげぇ面白いことだと思う。
"就"は食っちまったからいなくなっちまったけど。
俺がここで観察してんのは"就"じゃなくて"元就"だから。
観察日記、やめるつもりなんかねぇからな。













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な が い

しかしようやくなんだか収まりがついた気がする。
いやぁセンスの無さは変わらずですね。

だれか書き方の虎の巻下さい…










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