melting kiss


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「ナル、ト……」

 明かりの消えた部屋、沈黙を破ったのは消えてしまいそうなサクラの声だった。
 カーテンの隙間から入り込んだ僅かな月の光に照らされた自分が映り込んでいる翠の瞳が、ゆらゆらと揺らめきながら真っ直ぐに自分を見つめていた。


 いつも側に居た。

 いつも焦がれて居た。


 その瞳に映る自分は今どんな顔をしているのだろう。 
 翠色の瞳の中に映るのは淡い光でなぞられたように見える自分の輪郭だけ。

「ナルト」

 部屋の暗がりにそのまま溶けて消えてしまいそうな、それでも先程よりもしっかりと名を呼ぶ声がナルトの鼓膜を震わせた。

 体が急速に冷えて感覚を失って行くような。なのに体の中は疼く様に熱い。

 どくり。

 耳元で心臓の音がしていた。


「サクラちゃん」


 そう言ったはずのナルトの声は、鼓膜を震わせる事なくカラカラに乾いた喉に張り付いた。見つめる瞳は熱を孕み視線は絡み合う。
 視界の端でゆっくりとサクラの細い指先が動くのを感じた。その指先がそっとナルトの頬に触れて、ナルトの体はピクリと揺れた。
 ナルトも自分の体を支えていた手を恐る恐る持ち上げて、サクラの頬にそっと触れると、二人の間の空気の密度が増して、ゆっくりと距離が縮まって行き静かに唇が重なった。

 触れあう唇はすぐに離れ、そしてまたすぐに重なった。
 何度も繰り返し重なる唇。

 頬に触れていたサクラの指はゆるゆると首筋を辿り、ナルトの手は頬から肩をなぞるようにゆっくりと背に回っていく。
 その手にサクラを支えながら口付けを繰り返しつつその体に覆いかぶさって行く。

そっと唇を離して体を支える手の中に閉じ込めたサクラを見つめると、潤んだ瞳のサクラが見つめ返してくる。


 ずっとその幸せを願いつつ
 側で見守っていこうとそう思っていた

 決して触れる事はないとそう思っていた


「サクラちゃん……オレ、」

 掠れた声で呟くナルトの頬をサクラの両手が挟んで、自分の方へと導いていく。
 再び唇が重なって、吐息のようなサクラの声が囁いた。
  

「好きよ」

 
 ナルトの中で何かがギュと鷲掴みにされたように切なく愛しい気持ちが溢れてくる。たまらずサクラに深く口付けた。

(2013.2.14)


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