幸色を探しに行こうか


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 休みの日。
 遅めの朝を迎えたナルトは、ベッドに横になったまま部屋の中をぼんやりと眺めていた。

 子供の頃から見飽きてしまうほど見てきた狭い部屋。

 前日の夕食の名残が置がれたままの食卓テーブルや、洗いものの溜まったシンク。
 脱ぎ散らかした服や干されたままの洗濯物。

 かつての部屋の様子が容易に頭に浮かんでくる。

 全てが見渡せる程こぢんまりとしていて雑然と散らかっているのに、どこか殺風景な部屋をここから眺めるのがナルトは嫌いだった。

 幼かった自分は、嫌でも目に映る部屋の景色をなるべく見ないようにしてきた気がする。
 自分は独りきりだと気付いてしまうから。



 ナルトは体を起こしてベッドの上に座ると、ゆっくりと部屋を見回した。

 相変わらずこぢんまりとした部屋に変わりはないけれど、部屋の中は以前とは違って雑然としない程度には片付いている。

 無機質な色をしたカップ一つと器が二つに数枚の皿しかなかった小さな食器棚には、水玉模様のマグカップが並び、柔らかな色をした食器が並んでいる。
 自分とずっと一緒にこの部屋に居る食卓テーブルの上には小さな器に生けられた花が飾られている。

 ここから部屋を見回していても、昔感じた寂しさはもう感じることはなかった。部屋のあちらこちらに小さな色彩を見つけては笑みが浮かんでくる。

 一つ、また一つ。殺風景なこの部屋に色が増えていくのが嬉しくて
 今ではベッドの上から眺めるこの景色が好きだった。


 ガチャガチャとドアノブを回す音がして、桃色の髪をさらりと揺らしながらこの部屋に少しずつ幸せの色を増やしてきた張本人が顔を覗かせた。

「もしかして、今起きたの?」

 クスクス笑いながらベッド脇までやってきたサクラを見上げて、その体に腕を伸ばし抱きつく様に抱き締めた。

 サクラの香りと少しだけ陽の光の匂いがした。

「今日は一緒に出掛けるんでしょ?」
「ん〜……」
「早く準備しなさいよ」
「ん。でももう少し」

 少しだけ呆れたように言いながらも、サクラの手はナルトの髪を撫でるようにふわりとナルトを包み込む。

 きっとこの部屋の中で一番温かく華やかで綺麗な色どりを添えるのはサクラだ。 
 ナルトをいつも幸せな気持ちにしてくれるサクラの存在こそが。


 ずっとこの幸色に包まれていたいと思う
 自分もサクラを幸色で包んで行けたらと思う

 
 これから選ぶ幸色を二人で探して選んでいけたらいいと思う


「ねぇ、サクラちゃん」

 ナルトがポツリと名を呼べば、「ん?」と優しい声が返ってくる。

「……一緒に引っ越さない」

 ナルトがサクラを抱き締めたままそっと見上げると、サクラはほんの少し面食らったよう顔をしていた。
 思わず言ってしまってから、かぁっと熱を持ち始めた顔を隠すようにサクラに擦りよるように赤面した顔を隠した。


 ほんの数秒の沈黙の後。


「それじゃあ、今日は不動産屋さんも覗いてみようか」


 聞こえてきたサクラの声に、ナルトはサクラを抱き締める手にぎゅっと力を込めた。



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