擁く
いのは目の前の椅子に座る幼なじみの姿を見て小さく息をついた。
「大したことなくて良かった」
人伝にシカマルが怪我をしたと聞いたいのは、幼なじみ元へと駆けつけたのだ。
いのの呟きに何も返さないシカマルは、うつむき加減に椅子に座っていた。
そこにはいつもどこか自信に満ちている姿はなく、いのの知るシカマルよりも小さく見えた。こめかみと頬のガーゼが嫌に白く浮いてみえる。
最期に届いた父親達からの声。
託されたもの。
一瞬でいのの中を満たしていった悲しみと悔しさ。
シカマルも自分と同じ思いに駆られたに違いなかった。ただシカマルは代理とはいえ隊長でとして在るが故に託されたものを受け継ぐべく、悲しむ間さえも持つことができなかったかもしれなかった。
シカマルはいつだって己の感情よりも自分の置かれた立場とどのように振る舞うべきかをよく理解していた。
「シカマル」
いのの声にやはり返事は返ってこない。
自分にはシカマルにしてあげられる事はないのだろうか。こんな時だからこそ側に居たいし居て欲しいと思うのは自分だけなのだろうか。
シカマルを見つめていたいのの視線が切なげに床に落ちていく。
「…また後で来るから」
いのが小さく告げてシカマルに背を向けた時だった。不意に左手を掴まれた。
驚いて見てみれば今までピクリとも動かなかったシカマルがいのの左手を掴んでいる。
いのは思わず掴まれている自分の手をじぃっと見ていた。
「……」
「シカマル?」
「……」
いのは体の向きを変え、相変わらず俯いたままのシカマルの結った髪に触れた。
心なしか左手を引かれたような気がした。
そのまま一歩シカマルに近付いていつもよりも小さな体を抱き寄せる。
「いの」
消えそうな声がして、左手に感じていた熱が消える。
代わりにシカマルの両手がいのを抱き締めた。
いのも両手で抱き締め返す。
しばらくそのまま二人は無言で互いを抱き締めあった。
「……わりぃ、な」
小さな声と共にシカマルの手が僅かに緩んむ。
「なにがぁ?」
「……」
「別に謝る事なんかないけど」
「……」
いのは離れようとしているシカマルをぎゅうと抱き締める。
「シカマルはあたしの前ではただのシカマルでいて欲しいの」
「……」
「シカマルの前ではあたしもね」
ふふ、と笑っていのはシカマルを覗き込む。
チラッと視線を上げたシカマルと目が合うと、いのは笑顔のまま真剣な眼差しに変わった。
「シカマルを支えたい」
はっきりと告げられた言葉にシカマルは一瞬目を大きくすると、フッと口元に笑みを浮かべて目を瞑りいのを強く抱き締めた。
シカクさん…
いのいちさん…
カッコイイ大人のお二人が大好きでした(涙
2013.01.04
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