正 夢
朝食の準備を終えたサクラは、寝室に向かった。
「朝よ。起きて」
ベッドの布団の膨らみが、サクラの声に反応してモソモソと僅かに蠢いた。
「……ったく」
サクラは、再び動きを止めてしまったそれに呆れた声を零した。
布団の中のナルトは、なかなかに寝起きが悪く、毎朝布団から起き上がるのに時間を要する。一緒に暮らすようになってから、サクラがナルトを起こすのが毎朝の常になっていた。
任務中はいつもスッパリと起きていたし、お泊まりをした朝だって二人で布団の中でゴロゴロと過ごす事はあったけれど割とスッキリ目覚めていた。だからナルトが朝に弱いなんて一緒に暮らし始めるまで知らなかった。
おかしい。
一緒に暮らす前はちゃんと一人て起きていたはずなのに。
ベッドへと近付いたサクラは、むんずと布団を掴んだ。
「ナルト!朝よっ。起きて」
サクラが布団をめくりあげると、まるで布団に引っ張られるようにムクッとナルトの上半身が起きあがってきた。
「……今日はあっさり起きたわね」
起きあがったものの、まだぼんやりとした顔のナルトがサクラを見上げてほにゃりと笑った。
「なんかさぁ、すっげーいい夢だったんだ」
開口一番嬉しそうに言うナルトに、ちょっとだけ胸がこそばゆくなるも、顔には出さず関心なさそうな声で起床を促した。
「そう、良かったわね。ほら起きなさいよ」
「ねぇ、聞きたくない?」
見上げてくるナルトの表情があまりにも幸せそうで、ほんの少しだけその幸せに触れてみたいと思った気持ちを片隅に押しのける。
任務に行く時間は刻一刻と迫っている。特に今朝はのんびりしている時間などないのだ。
「ご飯食べながら聞くから、もう本当に起きて」
ナルトの手を掴んで引き起こそうとしたサクラは、反対にナルトに手を引かれバランスを崩した。
「きゃっ」
小さな悲鳴と共にサクラがナルトの上に倒れ込む。
抗議を含んだ目で見上げれば、目の前にはナルトの碧い瞳が柔らかく見つめていた。
「夢でね、サクラちゃんがさ、おはようのキスしてくれんの」
ナルトが僅かに顔を傾けながら少しだけ目蓋を閉じてサクラに優しくキスをした。
「へへ、正夢になった」
視界一杯のナルトがニコリと微笑んだ。
嬉しそうに笑うナルトも
ナルトの幸せな夢が自分だったことも
触れた唇の優しさも
全部が愛しくて
「これじゃ……正夢じゃないじゃない」
サクラは小さな声で呟くと、長い睫毛を伏せ自分からそっと唇を重ねた。
(1012.5.6)
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