Flower Sermon


 想いが伝わったらいいのに


 サクラは、立てた膝の上に両手で支えたカップからゆらりゆらりと上がる湯気越し に、ナルトの背中をじっと見ていた。
 ベッドに寄りかかりながら、そんな都合のいい事を考える。

 視線の先にいるナルトは、サクラの少し前で床の上で胡坐をかき雑誌をめくっていた。


 今すぐ抱きしめて欲しい
 ナルトの温度に包まれたい
 ナルトの温かさに触れたい


 唐突に湧いてきた願望を伝える術を知っているのに
 それが出来ずに、ただ気付いて欲しいと願うなんて

 そんなの狡いし我が儘だ。
 
 それはサクラ自身が一番よく分かっている。
 けれど、甘える事が下手で苦手なサクラにとって、それを伝える事は難しい。


 ナルトは優しい
 見つめる眼差しも、抱きしめる手も、触れてくる指先も
 いつだって優しさで溢れている
 ナルトの愛情を感じないことなど一時だってない

 目に見えない不確かなものを
 いつだって確実にサクラにくれる


 もっと触れて
 もっと抱きしめて

 もっと 愛して


 欲張りな自分が心の中で言っている

 優しさに包まれるだけじゃ足りなくて
 今すぐ抱きしめて欲しくて

 なのに自分からは言えなくて

 手を伸ばせば届くのに
 名前を呼べば大好きな青い瞳が見つめてくれるのに

 唐突に湧き上がって、今やサクラの内をぐるぐると渦巻くように満たして行く感情を抱いて、ただ湯気越しに見えるナルトの背中をじっと見つめていた。
 もしかしたら、ナルトが気付いてくれるかもしれないと
 気付いて抱きしめて欲しいなんて、そんな我が儘な願いを抱きつつ。


 振り向かない背中が無性に悲しくて今度は涙がこみ上げてくる。


 あぁ……
 なんて勝手な女なんだろう
 なんて面倒臭い女なんだろう

 言葉にせずに知って欲しいなんて

 わかっているのに
 こんな事で嫌な感情に満たされていく自分が一番嫌いなのに

 なのに言葉が出ない
 いつものように名前を呼べない

 そしてまた、触れたい背中を見つめたまま時間だけが過ぎていく

 切なさがどんどん増していって
 どうしようもない気持ちになる


 その時、ふわりと黄色い髪が揺れて、綺麗な青がサクラの方を向いた。
 読んでいた雑誌をその場に放ったまま、ナルトはサクラの方へと体ごと振り向いて身を寄せる。

 じっと自分を見ているサクラに優しく目を細め、サクラの手からもう湯気の見えなくなったカップを優しく取り上げ床に置いた。
 青い瞳は床に置いたカップをチラリと確認すると、すぐにサクラを見つめ直す。

「サクラちゃん」

 愛しそうに響くナルトの声も、サクラの髪を梳きながらゆるく後頭部を撫でるナルトの手も

「どうして欲しい?」

 優しく覗きこんでくるような眼差しも、サクラの思う事など全部わかっているみたいで、サクラはなんだか泣きたくなってしまう。

「ギュ……って、して」


 頭を撫でていた手が背中をなぞる様にして肩を抱いて、もう一方の手がサクラを引き寄せるように背中に回る。
 ナルトの香りとほんの少しだけ高めの体温に包まれる。

「フフ、サクラちゃんは甘えただよね」
「……」
「甘えるのすっげー下手だけどね」
「……」
「でも、オレにはわかるから。もっと甘えて?大歓迎デス」


 サクラはナルトを抱きしめ返す手に、言葉にできない想いを込めた。
(12.03.03)
QLOOKアクセス解析




[ 1/1 ]

[*prev] [next#]

* Novel *
* Angel's Ladder *



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -