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特になんてことも無い。



「今日も、有難うございました。」


ああ、気にすんな。と言った土方さんに頭を下げた。彼の優しさは今は痛いほど有難い。土方さんも、佐々木さんも坪倉さんも、みんなみんな優しい。警察って冷徹な人ばかりだと思ってたけど、違ったようだった。


「お前、明日はあんまニュースとか見んじゃねぇぞ」
「え、何でですか?」
「何でもだ。まァ無理強いはしねェが…」


土方さんはバツが悪そうに目を泳がした。何が言いたいのかは分からなかったが、私は上手いこと頭を働かせ、土方さんが言わんとしていることを察した。――大方、私の家族の事件が公になるのだろう。あれから数日経っているのだから、当然といえば当然だが。


「分かりました。見ないことにします」
「……何かあったらまた連絡してくれ。明日また、迎えに来る」
「はい。お昼くらいでまた良いですか?」
「ああ。一時過ぎにまた来る」


今日もゆっくり寝ろよ。と低い優しい声で彼は私に告げると、早々と車で去っていった。ブル、と震える体を両手で抱き抱えて、私も家に戻った。






家の中はやはり暗い。暗くて、暗くて、気持ち悪い。あの人達の声が、聞こえないのが不思議で、その声を忘れそうになるのが今一番恐ろしいことだった。


「何で、私は一人なの」


枯れた疑問は、静寂に掻き消されていった。どうせなら、本当に私も連れて行ってくれればよかったのに。

ちらりと横目で台所の調理器具置き場にある包丁を一瞥した。あれを胸に突き刺せば、この億劫な気分も消えるだろうか。

だが、私にはそんな勇気もない。きっとお母さん達も、私が生きることを望んでいるだろう。

ぐっと泣きそうになるのを堪えて、私はバスタオル片手に風呂場へ向かった。何もかも、考えるのを止めたかったからだった。



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