■ どこ迄も無知なオレサマたち
名前ちゃんが死んでから、真田の旦那が少し変わった。
何処がとは細かく言えないけど、鍛錬をあまりしなくなったし、ぼうっと何かを考え込むことが多くなった。
「旦那。真田の旦那」
「…佐助か。何だ」
「旦那、最近上の空なことが多いじゃない。何を悩んでるの」
「…ああ。俺にも分からない。如何して、これ程まで胸が痛むのか。苦しくなるのか。原因が何一つ理解出来ぬのだ」
「……それはアンタ、名前ちゃんが死んだからじゃないのか」
俺様の言葉に、旦那はハッとした顔をする。名前ちゃんという名前が、旦那のモヤモヤした心情を救い出したのだろう。
あんなにも近くにいたのにね、旦那。旦那は自分の気持ちにすら気付けないのかよ。
「…そうか、名前殿が死んだからか。だが、如何して俺はここ迄気を沈ませているのだ。もう、俺は思う存分泣いた筈だ。」
「…泣いた程度じゃ旦那の気持ちは収まらないんだよ。如何してだと思う?」
「……。分からない。」
旦那がまた暗い世界へ戻ろうとしたので、俺様はまた旦那の要点をつくような事を言ってみる。
…それにしても、こんなにも馬鹿な旦那は初めて見た。旦那の人生の中で、これは一番の失態だな。
……はぁあ。
「だから旦那はさ」
「! 何だ」
「好きだったんじゃないの。名前ちゃんのことが」
「…? 好きなのは当たり前だ。お前も名前殿が好きだっただろう?」
「いやいや、そういう意味じゃなくて。……だからさ、旦那は名前ちゃんに恋をしてたんだよ」
「は…? 恋?」
「うん、恋。名前ちゃんを女性として好きだったんだよ」
旦那は一瞬驚いたような顔をすると、「…そうか」と言って俯いた。どこ迄も情緒不安定な旦那は、意外にも破廉恥などと叫んだりはしなかった。
……でも。
「可哀想な旦那。死んだ後に気付くなんてどこ迄無知なんだよ、あんた。呆れを通り越して笑えてくるんだけど」
「佐助…?」
「どうせ名前ちゃんの気持ちにも気付いてないんだろ?あんなにも近くにいたのにさ」
「……。佐助、もしかしてお前は」
「旦那」
少し訂正しよう。
「ごめん、旦那のこと馬鹿にして。俺様も無知だったよ」
旦那から早く奪っておけばよかった、なんて。
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