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後から尋ねると、彼は下心が本当になかったようです。



深夜一時。しぃん、と静まり返る六畳の一室には、男女が二人、床に就いていた。と言っても、床に敷いてある布団は二つと、それぞれ別のものである。

部屋の所有者は女の方であり、女はすうすうと寝息を立てて眠りに入っている。一方、男の方は寝付けないらしく、こちらに背を向けて眠る女の姿を見ながら、どうしたもんかね、と心中で呟く。

女の名前は名字名前、男の名前は坂田銀時という。同じ一室で床に就いているが、面識はそれほど無いのである。銀時は万事屋という何でも屋を営んでおり、名前は最近来訪した客であった。なんでも、”最近、就寝中に寝室に誰かがいるような気がする”と持ちかけて来たのだ。恐らくだが、心霊現象の類であると感じる訴えである。
名前は万事屋従業員に、”部屋にいる何かを突き止めて欲しい”と依頼を出したのだ。そして依頼を承った万事屋は、三日連続、従業員を変えては同じ一室で眠り、部屋にいる誰かを突き止めることにしたのだ。

一日目は従業員の少女、神楽が担当した。一晩共に過ごした神楽に訊いたところ、”夜の記憶がない”と口にした。それだけ聞いてみれば、何かあったのかと思うが、神楽が朝に発した「あーよく寝たアル」という証言から、彼女は幽霊の存在を確認せず爆睡していたことが推測できた。

二日目は従業員の少年、志村新八が担当した。彼は十六という齢であり、女性を意識し始める齢と言っても過言ではない。そして予想していた通り、彼は女性と一室で二人で眠るということに過剰に意識をしてしまい、一睡も眠ることなく夜を過ごしたのだ。眠れなかったということは、幽霊の有無を確認出来たか。そう訊いたら、彼はそんな余裕はなかったと口にした。こちらも、失敗に終わったといえる。

三日目が現在にあたる。万事屋の社長、坂田銀時が担当することになった。しかし彼は、実際に自分が検証することに、何度も抵抗し、断った。なぜなら、依頼客である名前は自身と同じく二十代であり、ということは、同じ大人同士ということになる。新八のように行き過ぎた初心な反応はしないとは思うが、少なからず名前を女として意識してしまう可能性がある。名前はとびっきり美人ではないが、男に好かれそうな優しげな雰囲気を持っている。
そんな彼女と、六畳の一室に二人きりというのは、やましい感情が生まれる可能性が大いに存在するのである。――しかし、依頼客が若い女でなくても、この依頼を検証したくはない理由があった。それは、銀時は心霊の類が滅法苦手であるということだ。いい歳した大人が、と言われるのも無理はない。しかし、苦手なものは苦手なのだ。
銀時にとって、若い女と二人で夜を過ごし、その間幽霊の有無を確かめる、という状況は、一言で言うと”無理”なのである。無理でない可能性は五パーセントもない。名前に手を出さないことは出来ても、幽霊の有無を検証することは出来ないのだ。という理由で何度も拒んだが、他の従業員が無能でありすぎる為、仕方なく銀時が担当することにしたのだ。


「…俺マジでここで寝んの?」
『…? はい。お願いします!』
「…俺がここで寝て、名字さんは別のとこで…とか無理?」
『…ううんと、万事屋さんに依頼を出す前に一度それをやってみたんです。ですが、私がいないとそういう心霊現象起きないらしくて……すみません』
「…あ、そう。了解」


夜の十二時。深夜零時。

名前の自宅へ着いて早々、寝室で眠る状況に陥った。寝室の隅にはタンス一つが置かれているだけで、中心には、既に布団二つが敷かれていた。情事に臨む夜か。初夜か。と、銀時は内心溜息を吐く。


『銀時さん、こっちの布団どうぞ!』
「……お宅、彼氏とかいたことある?」
『え、な、なんでですか?』
「…いや、警戒心っつーのをもっと持った方がいいぜ。もっとっつーか、マジで」
『け、警戒心? …この部屋で寝続けると幽霊に呪われる、とかですか?』
「……まァそれもだけど。つーかもう引っ越したらいいんじゃね」
『…引越し…このお家、お爺ちゃんから貰った大事なお家で…』
「…んじゃあ、この寝室にいんのお爺ちゃんじゃね」
『…かもしれませんね』


名前が苦笑する。銀時は溜息を漏らさないように、噛み締める。


「…何があってもしんねェからな」
『…な、何がって?』
「…一つ最後にお願いしてェんだけど、幽霊がいた場合、あんたの手とか握っちまうかもしんねェ。それでもいい? いいんなら、ここで寝る」


なんつーお願いだ。銀時は言った直後にそう思った。


『…坂田さん、もしかして、幽霊苦手なんですか?』
「は、ァ!? な、なわけねーだろ。で、で? 握るかもしんねーけどいいの?」
『…大丈夫ですよ。そんなに怖いなら、遠慮なく手を握ってください』
「ち、違ェつってんだろ! コラ!」


照れからか、身体が急に熱くなったのを感じた。寝んぞコラ、と赤い顔を隠すように、指定された奥の布団へ横たわる。名前も、ふふと笑みを漏らしてもう一つの布団へ入った。


そして、冒頭。深夜一時となる。
名前は眠りに入ったようだが、銀時は全く眠れないでいた。というか、眠ってはいけないのだ。幽霊を確認しなくてはいけないのだから。となると、無理に布団へ寝転ぶ必要はないのではないか。別室にあったマ〇ジンを読んで、時間を過ごせば良い。なぜそういった考えが浮かばなかったのかと、銀時は上肢を起こそうとした。しかし、その時、ばん、と壁からなのか天井からなのか音が鳴り響き、混乱した俺は一瞬で身体を動かしていた。瞬時の自身の行動に、俺自身吃驚した。

 ――え、えー? な、なんで俺、この人の布団の中に入ってんの?

早く出なくてはいけないと身体を動かそうとするも、よほど先程の音に驚いたのか、身体が動かない。

――ど、どんだけビビってんだ俺は…。

豆電が付いた部屋で、ふと銀時はあることに気付く。この部屋の布団の位置的に、北枕になるのだ。北枕は遺体を寝かす時に行う位置であり、縁起が良くないとも聞く。この所為で、幽霊が来てんじゃねーのか、そう名前に尋ねたくもなるが、彼女はもう眠りに入っている。

――と、とりあえず、意識を幽霊から離そう。え、えーなんか他に考えること…面白ェ話…ない。…な、なんか考えることねェか…。

必死に他事を考えるも、何も浮かばない。ちらっと名前の姿が目に入ったとき、銀時はあることに気付く。

――なにその寝方。上半身うつ伏せで、下半身は横向きってどういうことよ。

乳潰れんぞ、と善意で彼女の上肢も横向きにする。布団から身体を出すのは怖かったため、仕方なく布団の中から動かした。その際に、上肢の衣服がめくれ、腹が大っぴらになっていることに気付いた。これまた善意で衣服を下げてあげると、名前の腹に手の平が当たった。柔らかな触感に、銀時の手が腹上で動きを止める。

――柔らけ。

もう一度、腹に手を滑らせる。細過ぎず太過ぎず、程よい肉付きだ。ウエストのラインもしっかりとしている。

――もうちょい。腹でこんな柔らけェなら…

角張った肋骨に触れながら、次第に、手が胸に向かう。横向きだからか、胸が自然に谷間を作っており、下着越しでももっちりとした柔らかさが堪能出来る。久しぶりの人肌、暖かさに下心無しに感嘆する。名前の柔らかいすべすべとした肌がなんとも心地良かった。

また手が上へ向かい、肋骨以上にくっきりとした鎖骨を撫でながら、首筋に触れる。名前を見たときから、首が長いなと感じていたので、思わず触れてしまった。首の根っこを親指と人差し指で掴んでしまい、名前がうっ、と声を漏らした。

――やり過ぎたか。

手をぱっと離し、名前の反応を伺う。数秒後、また寝息を立て始めた。ほっと胸を撫で下ろすかのように溜息を吐いた。

――腹、胸、首、と来れば……

自然に手が腰から、太腿へ向かう。つう、と指先を滑らせるのではなく、手の平全体で肌を堪能する。尻も触ろうと手が動きかけたが、こればかりは駄目だと感じたのか、何とか留まった。

名前の身体をまさぐり続けた十分間。なぜか眠気が訪れた。どうせなら抱き枕にして寝てしまおうと腹部へ手を回しながら眠りに就くことにした。


それからのことは覚えていない。

朝になって分かることは、銀時はこの夜、かなり混乱していたのだろうということ。銀時自身、幽霊の所為で混乱していたのだろうなと改めて思った。

太陽の光で目が覚めた名前は、現状にかなり驚いたようだが銀時ががっしりと抱き着いていたので、起きることが出来なかったそうだ。基本的に昼前に起きることが日常な銀時は、九時まで寝続けた。帰って来ない銀時を心配に思った神楽と新八は、状況を見たと同時に、名前の『た、助けて』との発言に、一瞬で銀時をボコリにかかった。
銀時はその後名前に謝り倒したが、優しい名前は真っ赤な顔で銀時の暴動を許した。


次の日、銀時がいつものように万事屋で寝ていると、夢の中にて年老いた爺が現れ、孫に手を出すなと鬼の形相で叱ってきたため、寝室にいた幽霊は名前の爺という説は間違っていなかったのだと、銀時は後から苦笑した。知り合いの霊媒師に頼み、爺はこの世から成仏した。

これにて、解決したのだ。


いつも通りの日常を過ごす銀時は、実は、名前があの夜起きていたことを知らず――。


『(え、ええええええ! この人なに堂々と触って…!)』
「(胸柔けー)」
『(えええええ! せ、セクハラ! 普通にセクハラ! 手握るどころじゃないよ!!)』
「(首長ェな)」
『うっ…(え、ええええええ! 何でどうしてそうなったら、首を掴むってことになるの!? この人Sっていうのは神楽ちゃん達から聞いてたけど、ええええ! ええええ!)』
「(太腿エロいな…)」
『(えええ! そこいく!? もうセクハラどころじゃないよ! 待って! 待ってちょっと……!)』
「(…あー眠…抱いて寝よ)」
『(ええええこの状況で!? こ、この人何ぃぃ!?)』


それ以降、街で出会うと名前から避けられる銀時であった。



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