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夢ならば、覚めて



※闇。意味が分かると怖い物語(?)。注意。
_______________









狂ってる彼のことだから、嫌な予感はしていた。

とでも言えば、言い訳になるだろうか。
言い訳にしてくれるだろうか。


**


彼の家に入って早々、疑問を感じた。生臭い匂いがするような気がした。


玄関へ足を踏み入れた私は、鍵を閉めて、靴を揃えて家に上がった。    
明かりをつけるかつけないかの微妙な夕方の万事屋は、明かりをつけない選択肢をしたようで、彼らの姿を探そうと居間へ向かった。廊下を抜けてすぐの居間には、夕焼けの光のおかげで、ソファが二つあるのが確認できる。そしてその上に誰かが一人でが寝転がっている。姿が暗くて見え辛いが、銀時だろうとすぐに予想した。
そして案の定、『銀時、寝てるの?』と声をかければ、ソファに寝転がっている彼はくぐもった声で反応した。


「んー……名前?」
『うん。もう夕方だよ。神楽ちゃんは?別の部屋?』
「んー…そうだろ」
『分かった。ありがとね』


夕方。つまり、夜ご飯間近の時間。神楽ちゃんがいれば準備をし始められるが、この居間には神楽ちゃんの姿はない。しかし、銀時いわく別室にいるということなので、居間以外の部屋へ向かうことにした。

しかし、居間以外の部屋で、話し声も出さずに何をしているのだろうか?



『神楽ちゃーん』


歩きながら、彼女の名を呼んだ。しかし、台所にはいなかった。
――少し、生臭い匂いがした。玄関の匂いはこの台所からのものだろうか。魚でも捌いたのだろうか。…あ、机の上に包丁がある。魚でも捌いたんだな。

次に、洗面台へ向かった。だが、いない。風呂場を覗くも彼女はいない。
そうなると、他はどこだろうか。他にはもう、銀時の寝室か、神楽ちゃんの押し入れくらいしかない。
寝室で寝ている可能性もあるので、寝室から覗くことにした。襖を開け、また彼らの名前を呼んだ。しかし、彼女はいない。
神楽ちゃんの押し入れも覗いてみる。しかし、ここにもいない。

一人で探す私を放っておいて、悠々と眠りにつく銀時を心中で睨む。神楽ちゃん、家にいないじゃん、と。…きっと、銀時が眠る前までは居たんだろう。散歩にでも行ったのかな。それとも買い物?それか、気を利かせて新八くんの家に泊まりに行ったのかな。
…両方、可能性が高いな。まあでも、とりあえず家に食料があるのか確かめないと。どうせ、何もないと思うけど。

台所へ向かった私は、狭い空間に佇む冷蔵庫を見つけた。冷蔵庫の横には数個、パンパンになったゴミ袋が見える。
今日の夕飯、銀時は何が食べたいかな、と数秒どうでも良いことを考えていた私は、冷蔵庫を開けた。…安定の、何もない冷蔵庫だった。
冷凍室にも何かないか、一番下の冷凍室を開けてみた。すると、何かがあった。


『…?大根?』


白い、長いものがあった。部屋の電気をつけていないので、それが何であるか直ぐに分からない。それは数本あり、大根にしては細いのではないかと目を細める。そして、触って確かめてみることにした。それが何であるかが、とても気になったからだ。




しかし、好奇心とは厄介なもので。




ざらりとした触感に、びくりと大きく身体を震わせ、手にしたそれを思わず冷凍室内に落とす。決して大根ではなく、野菜ではなく、食物ではないよく触れるはずのそれが、なぜ、

いや、
なぜ、
ある、
のか。



私は心臓をバクバクさせながら、それをじっと見ようとする。しかし、動揺で焦点を合わせられない。一度落ち着こうと、冷凍室を閉めた。立ち上がり、一歩後ろへ退いた。



――ゴミ袋が目に入った。



やけにパンパンに入ったゴミに、どうしようもなく、悪い予想を立ててしまった。

暗くて、中は見えない。しかし、パッと見ただけでは燃えるゴミが入っている様子はない。
私はごくりと息を呑むと、震える手でゴミ袋に触れた。そして、夕日の唯一の光を利用して、中身を見ようとした。




――すると、目に入ったのは。

神楽ちゃんの、オレンジ色の髪飾りが付いた頭だった。






『―――っっ!!!』


私は悲鳴を上げそうになる口を手で抑えて、その場に座り込んだ。顔はないが、後ろから見た頭だったそれに、嫌な予想が脳内でバンバンと飛び交う。はあ、はあと息をして、その場から離れようと台所から出た。



すると、出た先にあるのは居間だった。



『……っ』



まだ、銀時は寝ている。
変わらず、呑気に寝ている。


聞きたい。あれは、何なのか。マネキンなのか。マネキンに決まってるでしょ。あのマネキンは何に使ったの、と。

銀時らへん、とぼやけた表現をしてしまうくらいどこかを見ていると、視界に入っていた銀時が身体を起こし、「んんん、」と大きく伸びをした。その行動にすら身体が震えてしまい、また心臓がばくばくとした。


「…どうしたよ。そんな所で突っ立って」
『……べ……別、に』
「ふうん。こっち座れば?」
『……うん』


着席を促され、視線を床へ向けながら、銀時の手前側にあるソファへ腰をかけた。
言葉に表すことができない、もやもやとした気分の悪い恐怖が、心を支配している。




どっ、どっ。
どっ、どっ。



息が苦しくなるくらい、
私は今、緊張している。




「今日の飯は?決めた?」


欠伸をしながら、銀時は私に尋ねる。
私はこんなにも不安なのに、彼は平然としている。



――なぜ私は、こんなにも不安なんだろう。




「名前?」
『っ、あ…えっと…』
「…なんか体調悪い?顔色悪くねェ?」
『…そ、そう?大丈夫だよ』



引きつった笑みを返して、私は銀時に聞きたいことを頭でまとめようとする。けれど、銀時が立て続けに質問してくるので、頭は混乱したまま動かない。



「なんだったら、俺が今日飯作るけど。それかどっか食いに行く?」
『あっ…そうだね。ご飯行くのもいいかも』
「だろ。まずそもそも、うち食料ねェしな。冷蔵庫ん中ってお前見た?」




冷蔵庫の中。




『…み、見た、けど』


食料はなかったけど。
下に、変なのがあったよね。

そう思いながら、俯いて、銀時の返答を待つ。



「何もなかったろ?」
『…な、何も…?』



――。
――よ、し。



『…銀時。あの…さ』
「なに?」
『あの……あ……か、神楽ちゃん、は?…えっ…と、今どこにいるの…?』
「ん?」
『かっ、買い物…に行ってるのかな?それとも、新八くんの家…?』
「何言ってんの、お前」
『だっ、だって…お家の中に、いないから』


私の言葉に、銀時はきょとんとしていた。
けれど、すぐにふにゃ、と頬を緩め口角を上げて、



「何言ってんだよ」


そう言った。
笑っている。笑っているのに。





「”まだ”、捨ててねーだろ」






どうして、
こんなにも怖いんだろう。




『…………まだ、って、なに』




聞く。聞くしかない。




「お前、帰って来てから家ん中全部確かめた?」
『た…確かめた』
「あ、そう。台所は?ちゃんと見た?」
『見…た、けど、いなかった…から』




聞きたくない。
いなかったから。そう、それで終わり。終わりにして。




「本当に?」
『……ほんとに』
「台所に、本当にいなかった?」
『……ぃ、なかった』
「へえ」



銀時は私から目を逸らさない。ずっと楽しそうに尋ねる彼が怖くて、視線を床へちらちら落とす。
話しを逸らそうと、机の上にあったお菓子を手に取った。お腹は空いていなかったけど、何かしなければ落ち着かなかった。なのに。




「いただろ」
『っ、』
「台所に」




――。
お菓子を袋から取り出そうとする手の動きが、止まる。視線を意味のない床へ落とし、ごくりと息を呑む。




「冷蔵庫ん中にはいなかったけど、いただろ。下と、外に」



――。

――?

――何これ。

――怖い。





『……銀時?』
「何?」
『…嘘だよね?』
「何が?」
『…そんなこと、してないよね?』
「は?お前さっきから大丈夫?そんな顔色して酔っ払ってんの?」
『……』
「…あ、そんなことしてないって、なに、早く捨てろって言いてェの?臭いがきついから?」
『……ちが、う』
「んじゃあ何よ。お前さっきから何が言いてェわけ。はっきり言えや」




――。
ごくり、息を呑んだ。



『…銀時。…神楽ちゃんと新八くん、って…殺し、たの?』
「は?」
『…ご、ごめん…変なこと言ってるよね?ごめんね、そんなことしないもんね…!』
「…おい名前、マジでどうしたわけ」
『ご、ごめん…そう、だよね』
「お前…もしや今日エイプリルフール?いや、今日は十月。何も関係ねェはず…」
『ごめん、違うならいいの。私ちょっと頭がふわふわしてたのかも。うん、そう。だから銀時「何も違わねーけど?」……え?』




――いやだ。

――気持ちが、悪い。



早く帰りたい。
そう思った。






――どこに?



「お前も一緒に殺してただろ。マジでどーしたのお前。出掛け先で頭打ったんだろ。まあ一時的な記憶喪失だな。もう直ぐ治るから安心しろよ」
『…何、言って…』
「何も変なこと言ってねーから俺。お前もあの二人殺ってたからさっき。で、バラバラにしたじゃん。腕と臓器とかは後で業者が持ってくから、臭いとかは気にすんなよ。ギャーギャー騒ぐんじゃねーぞ。つーか捨てんなよ」
『……』
「…どうした、真っ青だけど。横になる?病院行かせてーけど、余計なこと言われたら警察沙汰だからな。とりあえず寝室で寝ろお前」
『………大丈夫。かえ、帰るね。帰るから』
「んな状態で帰っても事故んぞ。いーから、連れてくから俺に捕まれって」
『……こ、来ないで…!』



大好きな彼に。こんな言葉を言ったのは初めてだ。
気持ち悪くて、吐き気がして、苦しくて、涙が出そうで、私は意識を失った。





***






――名前、名前ー?



『っ、』



目を大きく開けると、視界の中心には銀時がいた。



『ひっ…!』
「ひっ、てなに。何怯えてんのお前」
「起きて早々、目の前に顔があったらびっくりするネ」
「あぁそうか。悪ィな。お前魘されてたぞ」
『……私、夢見てたの?』
「それは知らねーけど、まぁ悪い夢だったんじゃねーの。怖ェ夢とか」
『そ…そっか。良かった……夢か』



ソファにて、横へ倒れていた身体を起こす。銀時や神楽ちゃんが、心配そうに私の顔を窺っている。

……良かった。夢か。




「早速起きたところ悪ィんだけど、飯食いに行こーぜ。神楽は寿司とか言ってっけど」
「寿司食いたいアル。ずっと食ってないネ。今日くらい食わせろヨ」
「だとよ。名前は?」
『…お寿司か。いいよ。でもお金大丈夫?』
「おー。一人いねーから大丈夫だろ」
『一人?新八くん?今日は一緒に食べないの?』
「はは、無理だろ」
「普通に考えて無理アル。どうやって一緒に食うつもりアルか」
『…?お妙ちゃんと一緒に食べるから?新人くん今日何かあった?ライブ?』



私の言葉に、銀時と神楽ちゃんは顔を見合わせて、首を傾げる。



何かおかしいことを言っただろうか。




「何言ってんのお前」
「まだ寝ぼけてるアルか」
『え?』
「さっき殺しただろ」
「一緒に」
『……え?』
「懇親のボケかそれ。不謹慎だなお前。誰のおかげで飯食わせてもらえると思ってんだ」
「新八のおかげネ名前!心して食うアル!」
「お前が一番何も感謝せず食いそうだけど。……名前?」







――誰か。

――夢なら。これが夢なら。

――次で、覚めるでしょうか。





『ちょっと、寝るね』


頬に伝う水を感じ、私はそう言って、横になった。



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