「セルティ。君はちょっとずるいや」
茶化すような調子で私は笑う。彼女の返答は聞こえない。聞こえるのは液晶画面に打ち込む音だけ。
『…何処がだ?』 「…ちょっとだけだよ。ちょっとだけ君はずるい。唯一無二の存在で、不老不死だなんて。欲しいわけじゃないけど、羨ましいや」 『そんな良いものじゃないぞ。私は名前と同じように生きて、好きな人と共に歳を取って死にたい』 「…だよね。分かってる。君は可哀想だよ。この世界で誰よりも素晴らしくて可哀想」 『…何が言いたい?』 「…実はね、私…新羅が好きだったんだ。…だから貴方のことを深く考えちゃって」
自傷気味に笑う私にセルティは返事を返さない。ただただ彼女は私の話を聞いている。 ーー化け物のクセに。余裕ぶッて。 過去の自分がそう呟く。子供みたいな文句だ。
「セルティの事は好きだよ。貴方の事を嫌いな人はいない。ううん、嫌いになれないの。だって貴方は良い人だから。誰よりも人の気持ちを理解していて、暖かい心を持っているから。…そう分かってるんだけど」 『名前?』 「どうしても腹の底では憎んでしまうの、貴方の事を。ふざけんな化け物ッて。新羅を貴方になんか渡すもんかッて。ずっと私の中の誰かがそう叫んでる」 『名前…ごめん』 「いいの、謝らなくて。私が悪いの。早く諦めなきゃいけないのは、私なんだから。…ごめんセルティ。ウザイよね、こんな女」
俯いて涙を流す私をセルティは抱きしめてくれる。やっぱり彼女はずるい。何でも出来るんだもん。こうやって、辛い時に傍にいてくれる。辛い原因なのは貴方のせいって思ってる私は遥かに醜くて、愚かなのに。
「ごめんなさい…嫌いになれないの…新羅を。もう勝敗が付いててとっくに負けてるのに…諦めきれないの」 『…』 「貴方の事が大好きなのに、やっぱり嫌いなの。新羅が好きなのは貴方だから。…邪魔だって思っちゃうんだ。…本当に面倒臭いよね。ごめんなさい…!」
世界で一番大好きで大嫌いな人。それは貴方かもしれない。セルティ。貴方はスーパーマンのように私を救い出してくれるけど、盗人のように私の好きな人を奪っていく。多分、貴方は私の事を何とも思ってないと思うんだけどね。
「セルティ…貴方は優しすぎるよ。私なんて放っておいていいのに。簡単なんだから、サッサと潰しちゃえばいいのに」 『…名前は私の大切な友人だ。そんなこと出来ない』 「…やっぱりセルティは良い女だね。良い女には良い男が付くって本当だ」
ムカつくぐらいにお似合いな二人。そこに私の居場所はない。無理やり作ろうとしても直ぐに壊される世界。新羅からセルティが消えても、彼は私の方を振り向くことはない。そう、分かっているのに。私はどうして子供のままなの。何故彼女に嫌味しか言えないの。
「セルティ、ごめんね。貴方の事を好きだけになることが出来ない。どうしても嫌いなんだ…貴方が」 『…分かった』 「本当にごめんなさい…諦めきれないの。私はやっぱりあの人の事が…!」
好き。好きなんだよ。神に誓ってもいい。私は岸谷新羅が好きだ。 セルティはもっと好き。でももっと嫌いだ。
『…名前。諦めなくてもいい。私はお前のライバルだからな』
セルティは言う。液晶画面でだけど。その言葉が私をより混乱させる。
「永遠のライバルになっちゃうよ?」
彼女は頷く。彼女の勝ちは見えている。見えている無謀な戦いが今、幕を下ろす。
「私、またセルティの事嫌いになっちゃうかもしれないよ?」
無謀なお願い。彼女は頷く。
私のライバルは世界一大好きで大嫌いな人です。
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