素敵な露天風呂で事件 「やっとついたァ!」 「な、言ったろ」 「何度も迷子になりましたけどね」 鬱蒼な森を抜けると、見たことのない村…街に辿りついた。 看板には「グランドジパングへようこそ」って書かれており、ここが有名な城下街であることが解った。 ううー…久しぶりの街だよ!これでようやく温かいお風呂に入れる。美味しいご飯が食べれる。フカフカのお布団で寝れる! 「ゾロさん行きましょう!」 「解ったから大人しくしてろって。転ぶぞ」 「ゾロさんがいるなら転びませんよ!」 「はいはい」 面倒くさそうに返事をしながらも、隣を歩いてくれる。 小高い丘を下り、街へ近づいて行く。わー…凄い活気…。 近づくにつれ、人は多くなり、そしてとても賑やか! 凄いな。楽しいな。今日はお祭りなのかな? 「おい、前見て歩け」 「ゾロさん、お祭りならちょっと寄っていきましょうね!」 「いや、ねェだろ」 「そうなるとお金が必要ですよね…。ちょっと稼いでいきましょうよ!」 「……ハァ…」 こんなに人がいるんだ。きっとたくさん稼げるはず! 私は村々に伝わる面白い話や、怖い話、奇妙な話をしてお金を稼いでいる。 ゾロさんは立って、“僧侶”らしくしていれば勝手にお金が入ってくる。お布施というやつ。 そうやって稼いでいるわけだが、今日は今までで一番稼げそうな予感! 「今日ぐらいお酒飲みたいでしょう?」 「よし、しっかり稼げよ」 「頑張ります!」 だけど離れたら(私が)危険なので、橋の上で向かい合わせになってそれぞれ稼ぐ。 ゾロさんは笠で顔を隠し、座っているだけ。それなのに色んな人が手を合わせて、お金を入れていく。あれ寝てるよ絶対…。 私はというと、まあまあ。 聞きに来てくれるのは大体が子供なので期待はできない。というか子供からお金は取れないよ…。 「で、これだけか」 「申し訳ないです」 「ま、鼻っから期待しちゃいねェがな。おら、行くぞ」 夕方になり、人もまばらになってきたので私たちも退散することにする。 ゾロさんは三日四日困りそうにないぐらい稼いでいた…。破戒僧なのに…。 しかも宿屋に入って、 「すまねェが一晩タダで泊めろ。そのかわり、この宿屋に商売繁盛の神さんを連れてきてやる」 突っ込みたいことはある。 「泊めろ」って何で命令口調? 僧侶が「神さん」なんて言っていいの? 連れてこれるわけないのにウソついていいの? さすがにこれはダメでしょ…。 そう思って店主の人を見ると、目をキラキラさせ、 「一番豪華な部屋にご案内させて頂きます!」 だって…。 その言葉にニヤリと笑うゾロさん。なんていうか、凄く極悪です。 「お連れの方にも豪華な部屋をご用意させて頂きますね」 「あ、一緒の部屋でいいです」 ゾロさんには本当申し訳ないんだけど、例え隣の部屋であろうと時々面倒なことが起きるので、一緒の部屋で寝かせてもらっている。 そりゃあ…恥ずかしいけど、ゾロさんそういうの興味ないっていうか、全然全く気にしてない。 だから悪いなって思いつつ、同じ部屋で寝ている。 「……あ、解りました。そうですか…」 「…」 でも大体がこうやって勘違いされてしまう…。 ちょっと、ニヤニヤ笑わないでよ。こっちまで恥ずかしいじゃない。 チラッとゾロさんを見ると、もう眠たそうに欠伸をしていた。 「ご夕食をお持ちしますね」 「肉と酒頼んだ」 「あ、私が食べるんです。飲むんです!」 破戒僧ってバレたら追い出されるんですよ!? そう思いをこめて睨むと、ゾロさんは既に夢の中へ旅立っていた。 ……確かにこんな贅沢な思いができるのはゾロさんのおかげだけど…。ちょっとぐらい危機感ってものを持ってもらいたい。 「ふう…」 一度息をつき、ゾロさんに布団をかけてあげる。 部屋は文句がないぐらい綺麗で、そして広い。しかも露天風呂つき! さすがグランドジパング…。全てのものが凄すぎる。到底私みたいな庶民には理解できないことばっかだ。 それに部屋に露天風呂があるってことは、お風呂で滑ることもないってこと。 わざわざ外で待ってもらうこともしなくていいし、ゆっくり浸かることができる!なんて素晴らしいんだ! 「ゾロさん、先にお風呂入っていいですか?」 「がー」 「よし、入ろう」 期待せず話かけ、期待通りの返事が返ってきたのでお風呂に入ることにした。 タオル、石鹸、浴衣の準備は万端。 狭い脱衣所に入り、ボロボロになった着物を脱ぐ。新しい着物も欲しいな…。 部屋に戻る扉じゃないほうの扉を開けると露天風呂!広い!素敵! 「あー…身にしみる…!」 掛け湯をし、ゆっくり浸かる。 ちょっと前にケガしたところがしみたが、それすらも気持ちいい。疲れも吹っ飛ぶ気持ちよさだ。 「眠たい…」 ボーっと星を見ていたら眠くなってきた。 だけどお風呂で寝たら風邪を引いてしまう。 起きなければ。そう思うも、身体はなかなか動こうとしない。 髪の毛も洗いたい。身体も洗いたい。 「よいしょ」 惜しみつつ湯船から上がり、身体と頭を洗う。 あー…目が覚めてきた。よし、もう一回お風呂入ろう。今なら大丈夫だ。 全部洗って再び湯船に戻ると、また眠気に襲われる。 やっぱダメだったかー。いや、私は悪くない。全ては露天風呂のせいだ。うん、そうだ。風邪引いても仕方ない気持ちよさだ。 「ん…?」 脱衣場のほうから、ガタガタと音がして、ゆっくり目を開ける。 部屋についてる露天風呂だから、誰かが入ってくることなんてないはず。 ……いや、一人だけいる。 「…ッゾロさん!?」 「あ。お前ここにいたのか」 眠気を覚ましてくれてありがとうございます。 バシャン!と音を立てて、肩まで湯船に浸かる。 ちょっとちょっと!何で入ってきたの!?私の着物あったでしょ?! 「ひれェ風呂だな」 「そ、そうですね!」 って文句を言いたいのに、パニックになってるせいで何て喋ったらいいか解らない。 何でそんな普通なんですか!ちょ、お風呂に入って来ないで下さい!え、気持ちいい?気持ちいいですよねー。 じゃなく!何これ。本当に私のこと女として見てないってことですか? あ、いえいえ。別に構いやしませんがね。うん、でもね、“羞恥心”って言葉があるじゃない?それなんです。恥ずかしいんです。 「こんだけ部屋が凄かったら飯も期待できるな」 「そうですね!いいお酒かもしれませんしね」 「だな!楽しみだ」 「あ、私もう上がりますね」 「おう。しっかり頭拭いとけよ」 「はい」 気持ち良さそうに空を見るゾロさん。 こっちを見てないのを確認し、タオルで身体を隠しながらお風呂からあがる。 ……あ、熱い。これきっとお風呂のせいじゃない。 何で平然とお風呂入れるんだろ。不思議だ。 あ、もしかして寝ぼけてるのかな。そうだ、きっとそうだ。そうに違いない。 「ゾロさんのバカ…!」 ▼ 「わかったから、大人しくしてなって」 キミのお守り役な僕の10題(milk様より) ( ← | → ) ▽ topへ |