王子様と甘い口付け エルザ
ころり、エルザは口の中の飴を転がした。 ミラジェーンにもらった、可愛らしいイチゴ味の飴だ。 ケーキとは違う甘さが広がる。 それにしても、今日は静かだ。 ナツはハッピーと共にクエストへ。 グレイもジュビアと共にクエストへ。 ルーシィはレビィと共に本屋巡りだそうだ。 たまにはこんな静かなギルドも良いかもしれない。 そう思いながら新聞をテーブルに広げ、飴を転がしながら文字の羅列を目で追う。
「珍しいな、エルザ一人か?」 「…ガジルか」
ふと影が落ちた先、今しがたギルドに顔を出したガジルに、エルザは「まぁな」と頷いた。
「そう言うお前こそリリーはどうした?」 「ウェンディとシャルルが連れてった。服を見てやるとか何だの…」 「着いて行かなかったのか。リリーがいるのに、珍しいな」 「女の買い物は長いだろ。俺はジュビアだけで充分だ」
幽鬼時代に「おしゃれしなきゃダメですよ!!」とジュビアに散々連れ回された事を思い出し、ガジルはため息を吐いた。 きっと、ルーシィ達女性陣が聞いたら総攻撃を受けそうだが、エルザはクスクスと笑う。 笑うんじゃねぇ、と眉間に皺を寄せ、ガジルはエルザの向かい側に座った。
「その内、お前も連れ出されそうだな」 「絶対行かねぇ!!」 「まぁ、頑張る事だ」 「ぐっ…って、何か食ってんのか?」
数かな口の動きに、ガジルは反応した。 色気よりも食い気、ではないが、赤い瞳がキラキラと輝く。 腹が満たされると言うよりも気休め程度の食料だ。 ガジルに犬の尻尾があれば、左右に揺れているに違いない。 そんな視線に微笑み、エルザは悪戯を思い付く。
「ミラにもらったイチゴ味の飴だ」 「飴…」 「コレが欲しいのか?」 「……欲しい」
身を乗り出してきたエルザに驚きつつ、ガジルは素直に頷いた。 腹が満たされる量ではないが口寂しいらしい。 笑みを深めたエルザは、ちょいちょいと手招きし、身を乗り出したガジルの顎に手を添えた。
「な、ぁ、む…!」
くい、と顎を引かれ、驚く間も無く、視界はエルザでいっぱいになった。 赤い瞳を見開き、瞳を閉じたエルザを映す。 キスをされたのだ。 混乱する思考を他所に、エルザの舌が、ガジルの上唇を舐める。 ふるりと体が震え、緩んだ唇から甘い舌が侵入する。 思わず瞳をかたく閉じて舌を引く。 しかしエルザが逃がすわけもなく、綺麗に絡め取られた。 ぴちゃぴちゃ、と唾液が音をたて、ガジルは羞恥に体を震わせた。 上顎をねっとりと舐め上げられ、腰が震える。 もうダメだ、と思った瞬間、口内に甘い固まりが転がり、再び瞳を見開いた。
「は、ふ…!なに、すんだよ…!」 「飴が欲しいと言っていただろう?だから飴をやったまでだ」 「っ!!」
唇が離れ、眼前には勝ち誇ったような笑みを浮かべるエルザ。 かぁっと顔が熱くなり、ガジルは急いで身を引いた。 エルザも腰を落ち着かせて再び新聞に視線を落とす。 そして、スカートのポケットからイチゴが印刷された包みをひとつ取り出し、中からさっき舐めていた飴を口に含んだ。
「ちょっちょっと待て…!」 「ん?」 「飴、まだあんじゃねぇかよ!!」 「さっき私は『コレが欲しいのか』と聞いたんだ。だから口移しであげたまで」 「っ屁理屈だ!!」 「嫌なら抵抗するんだな」
そう、本当に嫌なら抵抗すれば良かったのだ。 抵抗しなかったのは、嫌ではなかったから。 これ以上反論すればボロが出るので、ガジルは大人しく飴を転がした。 暫くしてから新聞を捲り、それに合わせるように、エルザが口を開く。
「ガジル」 「な、何だよ」 「飴、もう一個舐めたくないか?」
ぴくり、ガジルの肩が震える。 優しく微笑むエルザと視線が絡み、甘くなった唾を飲み込み、小さく頷いた。
E N D
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