僕の気持ちは読みずらい。口を尖らせた彼女はそう呟いて、つまらなさそうに二枚爪を弄っていた。ぺりっと向けた薄爪は歪な形で地面に落ちる。 「怒るのはよく見るけど…。私もっと曽良くんが爆笑したり号泣する所が見てみたい」 「貴女じゃないんですから」 感情をむき出しにするのは僕には簡単じゃないことなんだ。身体が透明になって心だけが露わになってしまうようで嫌だ。心の中は綺麗なものだけではないのに。必死に自分の中に隠している色んな濁った気持ちを彼女に見られてしまったら。貴女まで一緒に濁ることはない。 「あ、曽良くん見て見て。空の端っこが朱いよ」 「陽が長くなってきましたね。ようやく冬が終わる」 「暦の上では春だもんねぇ」 隣り合っていた伸びた影は、二枚爪が剥がれたその指によって交わる。暦の上では春でもまだまだ触れる空気は冷たくて、繋がれた彼女の体温だけが暖かい。 「私ね、空がキレイだとか、ご飯が美味しいとか、そんな日常の些細な出来事が好き。それを曽良くんに話して、同じように思ってくれたら嬉しい。曽良くんもそうであったらもっと嬉しいの。それは苦しいことも痛いことも怖いことも全部だよ」 例えば、迫り来る夕闇の恐ろしさも貴女と一緒なら怖くないのか。 「なまえの笑った顔が僕は好きです」 空を仰げばまた明日がやってくる。 120227 |