彼女は淡い光になって僕らの前から姿を消した。正確に言うと転生して、今は優しそうな顔をした女の腹に宿っている。小さい小さいその魂はついさっきまで確かに此処にいたのに。また此処へやってくるのは、いつになるだろうか。

「良い場所で育つといいねぇ」

数十年前にも同じ事を聞きましたよと言いかけて止めたのは、僕のこの台詞も数十年前に吐いたものだったからで。彼女は何度も何度も変わるのに、僕らはずぅっとこのままだ。

光になって消える前、彼女は僕らの事を忘れないと言ってくれた。絶対だよと大王は返す。それが叶わない約束だと、今まで何回も交わした約束だということも彼女は知らない。だって忘れてしまうから。転生する度に記憶はリセットされて、僕らと、大王と過ごした日々は光と共に消えていく。大王はそれを分かっているくせに、彼女が姿も性格も過ごした人生も変わる度に飽きることなく同じ約束を繰り返す。積もる約束を大王一人がいつも抱えてまた彼女を待つ。たまに下界を覗いては苦しくて切なくて楽しそうな顔をするのも、僕は何度も見てきた。

ねぇ大王、彼女はまたこれから全てを新しいこととして生きて色んなものに心奪われていきますよ。また生涯の伴侶を見つけ、子を産んで育てて、そうやって得てきたものを全部持ってまた此処へやってきますよ。「またいつか」と同じ量の「はじめまして」を繰り返すことに何の意味があるんですか。繋ぎとめることが出来ないのなら早く人生を終わらせればとも考えたが、生きた時間が短い程冥界にいられる時間も短い。彼女が大往生すれば長く大王と一緒にいられるが別れはその分辛くなる。

このところは彼女の転生が決まると僕の胸の奥が軋んだ音で鳴りだすようになった。いつもいつもどうしたら2人が本当に幸せになれるか考えて眠れないけれど、閻魔大王が出来ないことをただの鬼の子がどうしようっていうんだ。誰かが決めたことだっていうんなら、悪趣味極まりない。こんな物語。


120216

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