すっかり暗くなった窓の向こうを確認してカーテンを引く。台所へと戻って煮立ってきた野菜の上に豚バラ肉を数枚置いた。朝から冷えた今日の夕飯は鍋。ずぼらな私は明日の昼食分もと材料を多めに作る。そろそろお肉の赤みが消えたので火を止めるとぴんぽん。玄関のチャイムが鳴った。ドアスコープを覗けばそこにいたのは黒いベストとタイトなパンツスタイルの露出狂。念の為、ドアチェーンをかけてから開ける。

「おい」
「何のようですかルシファーさん」

向かいのアパートに住む聖さんの知人だというルシファーさん。前に聖さんたちとご飯を食べた時に彼もいて(聖さん曰わく、呼んだ覚えはないらしい)それ以来やたらと絡んでくるようになったのだ。

「こたつに入りたくなった」
「聖さんの所に行けばいいでしょう」
「あいつら出かけてるみたいでいねぇーんだよ」
「だからって私のとこにこなくても…」
「つべこべ言わずにさっさと開けろ」

がちゃがちゃと乱暴にドアノブを回す彼だけど、こんな厨二病こじらせたような人絶対に部屋に入れちゃダメだ。

「一人暮らしの家に変な格好の男をほいほい招き入れる程、堕ちていません」
「あー出た出た。結局女は見た目で判断すんのか。付き合うなら外見より中身とか言っときながら所詮見た目重視なんだろこのビッチ」
「さようなら」

そのままドアを閉めようとしたけど、ガッと足と手でそれを阻止される。

「入れろっつってんだろ!寒ぃーんだよ!」
「上着を着ればいいでしょう」
「馬鹿。あんなん着てたら動きにくくてフットサル出来ねーから」
「とにかく帰って下さい」
「わかった!先っちょだけ、先っちょだけ入れさせろ!」
「ご近所さんに誤解されるようなこと言わないでぇ!」

駄目だこの堕天使。早くどうにかしないと。

「悪魔より薄情だなおま…はくちょん」
「…今のくしゃみですか?」
「ちげーよ俺がくしゃみするかよ。これはあれだ、俺の中の荒ぶる龍が姿を変えて出てきただけだ」

鼻水垂らしたアホ面でそんなこと言われても反応に困る。でも本当に鳥肌も立ってるし、それこそ風邪をひかれて私のせいにされたらたまったもんじゃない。

「…鍋でも食べますか?」
「え、入っていいの?」
「夕飯多めに作ったし…、但し!食べたら直ぐ帰って下さいよ」
「帰る帰る」

長い前髪の奥の瞳を信じて、ドアチェーンを外した。直ぐさまルシファーさんは玄関に上がり込んで後ろ手で鍵を閉める。そのまま乱暴に床に倒され被さってきたルシファーさんはやっぱり堕天使だった。

「まぁ先ずは、腹ごしらえだな」




冷めた鍋はまた火をかければいい。


111204

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