周りでは皆それぞれの仕事をこなしそれなりに忙しそうにしているというのに、何故私はこうも暇なのか。片手に顔を預け机に肘を置いて考える。私には仕事がないのか。いいや、仕事ならある。しかもこの朝廷内で一番厄介な仕事が。それを奪われたのだ。理由もなしに。だから暇。至極当たり前の理由は私のやる気を削ぐのに十分だった。あーあ、もういっその事帰ってしまおうか。だって私は何の為にいるの?他の仕事すらやらせてもらえないなんて。やるべき仕事がないのならいる意味がないじゃない。

「ボーっとしてる暇があるのなら仕事して下さい仕事」

振り返れば両手に大量の資料を抱えた嫌味ったしい顔の上司が立っていた。どの顔が物を言う。

「妹子が一番わかっているくせに」
「ええ。太子の世話役なんて僕一人で十分ですからね。あなたなんかに任せたらますます太子が公務を怠るようになってしまう」

あ、暇ならコーヒー淹れて下さい。と妹子は自分の机に資料を置く。あーイライラする。同い年で同期なくせに私よりちょっと立場が偉いからって調子乗っちゃってさ。コーヒーぐらい自分で淹れろよ。なんだよコーヒーって。なんでここ朝廷なのにそんな洒落た飲みもんあるんだよ芋野郎が!…そう思いながらも給湯室に足を向けるのは部下の悲しい性である。

妹子仕様にお砂糖二杯ミルク少なめコーヒーと早退届を叩くようにディスクに置いてやったらこれまた機嫌の悪そーな顔でこちらを睨んできた。お礼ぐらい言え。

「何です、これ」
「見ての通りコーヒーと早退届け」
「コーヒーは分かります。早退届が意味不明だと言っているんです馬鹿」
「仕事がないから早退するって言ってんだよ阿呆」

早く受理してくれと促すと彼はコーヒーを口にした後、わざとらしく溜め息を吐いた。

「あなたは何も分かっていない」
「分かってるよ。妹子は私が嫌いだって。だから私から太子の世話役を奪ったんでしょう?」
「だから馬鹿だって言ってるんです。いつ僕が嫌いだなんて言いましたか」
「じゃあ何、妹子は私が好きなの」
「そうだよ」
「あっそう。…………ん?…へ?」

あなた、告白した?

「ねぇ、妹子。耳真っ赤」

気まずい沈黙の後、耐えきれず指摘すると彼はゴクゴク喉を鳴らしながら淹れたてコーヒーを飲み干し、お代わり下さい早く目の前から立ち去れ今のは忘れろマジでお願いしますと捲し立てるように言い椅子をくるり180度回転させた。あっけにとられて早退届を出したことも忘れた私は給湯室へ。何気なく触れた頬が驚くくらいに熱をもっていること、彼にバレていないだろうか。平常心を保つためにコーヒーの蓋を開け、香りを楽しむ。そうだ、今度はお砂糖三杯入れてやろう。それを飲んだ妹子、なんて言ったと思う?

太子なんかの側にいるぐらいなら、ずっと僕にコーヒー淹れてくれれば良いんです。

本日二度目の赤面。

66dbさまへ!
071109/120802加筆修正

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