元より他人の世話をするのが好きな性格なんだと思う。 鍛錬が低い者の面倒を進んで見たり、自ら料理当番を買って出て、内番も嫌な顔一つと見せずこなしてくれる。そんな彼に対する周りからの評価はもちろん高く、本格的に体制が整ったころ私は迷わず彼を近侍に指名した。 「今日はどうかな?もう少し奥がいい?」 一人で過ごすには少し持て余す八畳の、その部屋の真ん中にある白く張りのあるシーツで包まれた布団は彼が敷いたものだ。忙しい身でありながらも天気のいい日は必ず干してくれる。真っさらなシーツにふかふかの布団は元の暮らしをしていたときには味わえなかったもので、気持ちよくって深い眠りにつける。それは、毎夜行われているこの行為のおかげでもあるのだけど。 「あっ…、もう少し、奥…」 「ここ? ……ここだね」 柔らかい布団に座る私の背中を支えながら、広げた脚の間にいる彼は指先で奥を突かれ素直に反応する私を見ていつもの調子で両の口の端を上げる。 近侍になった彼はそれはもう甲斐甲斐しく私の世話を焼いてくれた。怠惰を許さない面もあったけれど、それでも色々よくやってくれた。そう、何でもだ。起床から始まり着替えの支度、女性だからと肌の手入れに1日のカロリー計算までも。いくら私がずぼらな性格で今まで女らしいことに気をかけなかったからとはいえ、流石にやり過ぎではと感じた。それなのに世話を焼かれる心地よさに浸ってかまけて放置した結果、自体は思わぬ方へと進んでいく。 「オーガズムを感じるのって美容にいいらしいよ」 いつも通り、寝床の準備を終えた彼がふと世間話を始めるかのように呟いた。下世話な女だらけのくだけた会話ならまだしも一番体裁を保ちたがる彼の口から出るなんて。戸惑っている私をよそに、つらつらとその効果について説明がされたが何ひとつとして頭に入ってこなかった。それよりも一体そんな知識どこで仕入れたのかの方が気になって。その辺りについて詳しい彼らからか、それとも何かの書物か。答えを聞く前に彼がまた口を開く。 「だから、ね。してあげようか」 いつから私は彼になすがままにされていたのだろう。最近かもしれないし最初からだったかもしれない。彼に何もかもしてもらうことに慣れきって自分から考えるのを止めてしまった。おかしいと気づいていても寄りかかったまま。誰に見せてもおかしくないいつもの顔をぶら下げて伸びてくる手に戸惑ったけど、素肌を撫でられることが他のどんなことよりも満たされた。 それから毎夜、歯を磨くことご飯を食べることと同じように生活の一部となってしまったこの行為。終わりは私が達するまでだ。 「うん、やっぱり最近の君とても綺麗だ。もちろん前から素敵だったけど」 彼の欠点を一つあげるとするならば、その形のいい口から発せられる言葉がどこまで本心なのか分かりづらいところだ。見かけだけの言葉だけを並べているようにも感じるのは私が卑屈すぎるんだろうか。伊達男と言ってしまえばそれまでだけど。これが、相思相愛の間柄で行われる行為でその時に発せられる言葉だったのなら私は恥ずかしがりながらも受け止めていただろうな。 「みつた、だ…」 「ん、なあに?」 今日も終わりが近づいてきて前が霞んで頭が震える。察した彼の指の動きが一層早くなって、我慢できずにシーツを握りしめた。なるべく嬌声をあげないよう、短く吸って吐いてを繰り返す。視線を脚の間にやって肩をすくめながら大きく身震いをした。彼の顔を見たらその先を求めてしまう気がしたから。 達した私の乱れた衣服と寝具をいつも通り直して、優しく床に就かせると慈愛に満ちた瞳でひたいにかかった髪を払い撫でてくれる。その瞳は沸いた私の脳内が見せる都合のいいそれなんだろうか。今、彼の瞳は何色をしている? 貴方のせいで達するだけでは物足りなくなってしまったこの身体をもっと最後まで面倒見てよと言えたなら。そもそも最初からこうはなっていない。 「おやすみ主、よい夢を」 150608 |