※R-15くらい


今夜も布団が擦れる音で目が覚める。元々眠りは浅い方だから仕方がないのだけど、こうも連日歩き通しで疲れているのに貴重な睡眠時間を邪魔されるのは少し問題だ。だけれども最初のきっかけを逃してしまった私にはどうにも対処しきれずに目を瞑ってそのままやり過ごす。そうすればいつの間にか再び夢の中へと落ちて何事もなかったかのように朝を迎えることができるのだ。
できれば起きる度にあれは夢だったんじゃないかと思いたいのに、毎夜目が覚めこれは現実なんだと痛感する。

もぞもぞと布団に潜り込んだ彼は、横向きで寝ている私の後ろにぴたりと寄り添う。少しするとまたもぞもぞと動き出して荒くなる息遣いと共に腰の辺りが揺れる。考えたくはないけれどこれは、多分、そういうことをしているんだろう。ただ私自身に対し何かしてくるわけでもないし、まだまだ続く長旅をこういったことで拗らせるのは腐っても師匠である芭蕉さんに悪い気がして私はひたすらに夢の中へと逃げ続けていた。
気がすんだらまたいつものように自分の寝床へ戻るだろうと思ったが、今日は少し違った。いつも以上に首すじ辺りにかかる生温い吐息。くすぐったいけど、どこまでなら身をよじっても起きているとばれないだろうか。
そうしている間に下腹部辺りへ手が伸びてきて、ゆっくりゆっくり円を描くように撫でられる。あ、やばいかも。と思った時にはもう遅く、寝巻きの隙間からするりと入り込んだ冷たい指先は包み込むように胸を触る。先端を捩じられる刺激と、指先の冷たさを拭いたくて少しだけ枕に顔を沈める。寝息を真似て出した吐息は震えていた。冷たい指先は身体の中心を通りながらへその周りを撫ぜて、それから脚の付け根にたどり着いく。ゆるゆると行き来され気が気じゃない。その指が、いつか股の間に入り込んでくるんじゃないか、そうしたら私はどう対処したらいいのか。

「なまえ」

心臓がはねた。起きていたことに気づかれたのかという狼狽よりも、名前を呼び捨てにされたことによる方が大きかったかもしれない。彼はいつもさん付けで呼ぶから。その声音に何が含まれているのかは想像がつかなくて次の言葉を待つ。だけれども続いたのは言葉でなく指の動きで。

「…っ 曽良くん」

呼んだ。呼んでしまった。動いていた手は止まってするりと身体から離れる。ほっとしたのもつかの間、ゆっくりと肩を押されて視界が変わった。月明かりもままならない薄暗い部屋だけど、覆いかぶさる曽良くんの短い髪が揺れているのは夜目にも分かる。

「いつ、気づいてくれるんだろうって思っていました」

なまえ。もう一度、今度はたっぷりと色づいた声音で呼ばれてしまえばまぶたを閉じることなんてできやしない。夢への逃げ道はもうどこにもないんだから。



150604
舞台化おめでとうございます

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