おもむろに伸びた手は左頬に添えられた。彼の大きな掌はすっぽりと私の頬を隠し、指の先ははゆうに耳まで届いている。親指が唇を緩やかになぞった。

「なに?」
「スキンシップ」

片方の口の端だけ上げて笑う鉄朗の親指は、感触を楽しむかのように押したりなぞったりを繰り返す。ベッドに腰掛けながら雑誌を読んでいたのに中断せざるを得なく身体を鉄朗の方に向けた。唇の真ん中にたどり着いた親指は薄い隙間にすかさず入り込む。

「ふぁっ、ちょっ…」
「噛むなよ?」

親指と、それから続いて人差し指と中指がねじ込まれ私の口の中はあっという間に鉄朗の指でいっぱいだ。指はそれぞれ咥内の構造を確かめるように色んな所をなぞる。舌裏、頬壁、歯列。なにがそんなに楽しいのか弄っている本人は終始にやついた顔を見せている。
そろそろスキンシップという名の嫌がらせもいい加減にしてほしいと目で訴えたが、親指だけ抜かれ今度は薬指が入ってきた。三本の指が舌を撫でながら出たり入ったりを繰り返す。堪らずその手を掴んでも動きは止まらなくて、形としてはただ添えるだけになってしまった。溢れてくる唾液を飲み込むのに精一杯で知らず知らずに息が上がる。

「んっ んっ…、ふっ…」
「なーんかいやらしい顔してんねなまえちゃん?」

私でなく鉄朗がいやらしくしているんじゃないか、噛み付いてやろうと歯を立てたが指を抜かれる方が早かった。涎が一瞬指と口を繋ぐ。新しいおもちゃで遊んだ後のような満足げな表情を見せる鉄朗にムカついて、体重をかけながらめいいっぱい肩を押してやればさすがの巨体もベッドに沈んだ。マウントポジションを取りつつだらしなく開いた口へ同じように右手の指三本突っ込んでやった。

「どーよやられる気分は。まったく雑誌読んでたの、にっ?!」

れろ、と舌が這う感触に身震いをして指を引っ込めたが、残念なことに手首をしっかりと掴まれ逃げることは叶わなかった。

「あれれ?仕返しするんじゃなかったのかな?」
「えっと、もう、いいや」
「まあまあ遠慮すんなって」

別に遠慮してるわけでなく素直に身の危険を感じただけだ。なのに鉄朗は掴んでいた手首を無理矢理に自分の口元へ寄せ、大きく出した舌を脈に這わせた。急所が狙われているような寒気にも似たものが身体に走る。そのまま舌は掌を通り指の間にたどり着いた。一本一本、付け根から爪の先まで丁寧に舐められる。わざとらしくリップ音を立てながら小指を啄ばんで、どう?なんて聞かないでほしい。

「や、も、もういいって、ねぇっ…」

感想を求めてきた割りには私の制止は聞き入れられず、鉄朗のスキンシップは止まらない。それまでずっと手に注がれていた彼の視線が私に固定された。見せつけるように自分の手が舐められるのをまじまじと眺められるはずもなく顔を背けた。それでもまだ続けられる行為。含まれた人差し指と中指が咥内でじっとりと生温かい舌と唾液と絡む。じゅるっと唾液を吸う音が耳に届いていよいよどうにかなりそうだった。上下する手首の動きに思わず視線を戻す。二本の指が鉄朗の口の中に出たり入ったりする様子はどうしたってあれを連想させた。

「わっ ちょっと…!」
「舐められて感じたか?それとも舐めてる時?」

マウントポジションを取ったことが仇となり空いていた手が簡単に制服のスカートの中に入り込まれた。更にはパンツの中にまで滑り込み悔しいが濡れてしまっているそこを指は往復する。私も舐められていない左手で応戦するが、右手と同じようびくともせずやっぱり力では敵わないと思い知らされるだけだった。

「腰動いてんね」
「うるさ、んんっ あっ …ぁあっ」

埋め込まれた指が快感を誘う。膝立ちしている脚にも力が入らなくなって、結果として自分から指を深めていく形となってしまった。相変わらず私の指は舐め続けられていて、もう、このままじゃ全部ふやけてしまう。
指の動きが早くなって、堪らず大きく身震いをした時には私の身体はすっかり鉄郎に預けていた。ようやく口から解放された右手は熱を持っている。ぱち。かち合った目線の持ち主は唇を一周するように舐めながら腰を揺すった。

「今度はこっちを咥えて欲しいなー」
「ふやけちゃえば」



140904

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