下ろされて行くパンツがくるくると丸まって足首にだらしなく引っかかる。かかとを踏んで履いていた上履きはとうに脱げた。机の上に座っている私のスカートの中に顔を埋める栄口の栗色の髪の毛を触ると柔らかくってくすぐったい。
窓からは茜色の光が差し込んで二人っきりの教室に影をはっきりと落とす。粉っぽい黒板も、傷だらけの机も、私達も、全てが板張りの床に濃く写し出されていた。下の階から聞こえる金楽器の音が空気を揺らす。
舞台は絵に描いたような青春なのに、やっていることはなんてだらしないんだろう。こんなの、青春、いや、性春、って、誰かの曲であったなぁ。確か途中で女性ボーカルになるんだ。あの部分好きだった。誰が歌っていたんだっけ。

「なんか考え事してる」
「んー、なんて曲だったかなって」
「なにそれ」

スカートから顔を出し小さく笑いながら鎖骨に吸い付いてきた彼の髪の毛は相変わらず柔らかくって、夕陽に照らされきらきらと光を集めていた。跡が付かないよう優しく優しく吸い付かれ私の気持ちはゆっくりと堕落する。舐められて緩くなったそこに指を押し込まれれば後はもう流されるだけだ。

中学が同じ、顔と名前は知っている。それだけだった。三回あるクラス替えで同じ教室に入ることもなければ、委員会も選択授業でさえも違った。ただ、たまに目線がかち合って、そこに熱が孕んでいる気がしていた。それでもこれといった関わりがないまま私たちは偶然にも同じ高校へ進む。

「ねえ、」

阿部が呼んでるよ。気温が少し上がった日、そんな仕様もない嘘を彼は吐いた。阿部は用があるからってわざわざ人づてに呼び出すような奴じゃないのは古い付き合いだから分かっていた。分かっていたのにひと気のない校舎の隅までのこのこついて行ったのは、そうなることを望んでいたからだ。中学の頃から、熱を孕んだ目で見ていたのは私の方だった。
そこからの展開はその三年間がなかったかのように早くて。都合よく使われていない空き教室に押し込まれ身体を弄られた。まるで抵抗しない私に彼は戸惑っていたようにも見えたけど、特に喋ることもなく行為は続けられた。痛いと聞いていたが思いの外そんなことはなく、血も多分出ていなかった。気持ち良かったかと聞かれればそれも微妙だったけれど。それからと言うもの、彼の部活がない日はここへ足を運ぶのがお互い当たり前となっていた。

「ぁ、さかえ、ぐち、」
「イきそ?」
「ん…」
「ね、こっち見て」

空いている手で顎を持たれ絡む視線。瞳が熱に動かされ震えている。あ、この目、知ってる。中学の時に見てたから。
目が合ったまま、唇が合わさって、初めて彼とキスをした。柔らかくってたどたどしい。息がしたいのに隙間をあまり作ってくれなくて、指の刺激が強くて、声を出したいのに出せなくて、キスしてくれたことが嬉しくて、でも悲しくて、なんだかもうよくわからない。ぐちゃぐちゃで泣きそうだ。

「んっ ふっ んんー…っ!んぁっ はっ ぅえ、ひっ」
「泣くなよ」
「うぅ… ごめ…っ」
「お願い、俺も、泣きたくなるから」

彼は、私は、何を急いでいたのだろう。この3年間で知り合うきっかけなんて十分にあったはずだ。例えば阿部の部活仲間、千代の友達、あの子の、あの人の、そんな風に知り合えていたら今見えている世界はまるで違うものだったはずなのに。
この空き教室を出たら私たちの関係はセフレなんて都合のいい言葉で表せない。だって友達ですらないんだから。誰かの、あの子の、友達。それ以上でもそれ以下でもない。つまらない意地の張り合いをどう止めていいのか私たちにはわからない。

再び彼がスカートの中に手を入れて自身をあてがう時、言ってやった。

「私、マネジやれば良かったかな」
「…野球興味ないだろ」
「野球部なんて言ってない」

そんなんだからこんなまんま。


130816
「装飾」提出
指定タイトル「スカートの中のやっかみ」
指定内容「友達の友達」


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