どこからか聞こえてくる鈴の音と、街の賑やかな喧騒。 街路樹にきらめく色とりどりの電飾が、ムードをより一層盛り上げている。 「メリークリスマース!パーティーの主役、ケーキはいかがですかー?人気のブッシュドノエルもございまーす」 この時期になると毎年思う。 何でクリスチャンでもない人たちがクリスマスを祝うんだろう、と。 それでもやはり、小さな子たちはプレゼントに心踊らせ、恋人たちはお互いの愛を確かめ合う特別な行事なんだろう。 そして私は、今年も街頭で声高らかにケーキの宣伝をする。 「いらっしゃいませー!只今お買い上げ頂いたお客様には、先着で当店オリジナルマカロンをお配りしております。是非起こしくださいませー」 カップルはもちろん、家族連れ、仕事帰りの若い会社員、これから恋人の家へ行くらしい女子大生、とにかく様々な人がケーキを買っていった。 きっとこの後、素敵な時間を過ごすに違いない。 「ありがとうございましたー」 そんな人たちを見て羨ましくないと言ったら嘘になるけど、でもまぁ、仕方ない。 帰っても親は仕事でいないし、一緒に過ごす相手もいない。 こうして考えてみると、私って結構惨めだ。 いやいや、だから心置きなくバイトに専念できるんじゃないか。 と、無理やり自分を慰めてまた悲しくなった。 いけないいけない、これじゃあ虚しさの無限ループにはまってしまう。 「メリークリスマース!ケーキはいかがですかー?」 「すいやせーん」 「いらっ…、げ」 「よォ」 「何で沖田が来んの」 「来ちゃいけないんですかィ?ケーキ買いにきただけでさァ」 にやにやと笑うこの男の子は、同じクラスの沖田総悟。 こいつにだけは、見られたくなかった。 「イブにバイトだなんて、暇なんですねィ」 「ほっといて」 「確か去年もケーキ売ってやせんでした?」 「っ、よくご存知で」 こうなったら、もういい。 とことん開き直ってやる。 どうせこのドS野郎には勝てないのだから。 「で、ご注文は何になさいますか」 「えーと、土方毒殺スペシャルで」 「すみませんが、当店では殺人幇助はいたしかねます」 「じゃあ、七味たっぷり激辛ケーキで」 「誰がそんなケーキ買うの」 「仕方ねェ、普通のケーキでいいや」 「最初からそう頼んでよ」 沖田は相変わらず、にやにや笑っている。 そう言えば、こいつは誰とイブを過ごすんだろう。 ケーキを買いに来たところを見ると、クリスマスを目前に彼女でもできたか。 顔だけなら文句無しのこの男なら、その気になれば女の子なんてすぐに落とせるだろう。 「お会計、2500円になります」 「割引は?」 「いや、ないけど」 「なんでィ、わざわざ来てやったのに」 「いやいや頼んでないから」 「ま、いーや。その代わり、おまけもらえますかィ?」 「あ、そうだった」 プレゼントのマカロンを入れ忘れたことに気づいて、慌ててそれをケーキと一緒に紙袋に入れようとしたら、がしりと腕を掴まれた。 何これ、痛いんですけど。 「ちょ、離して」 「嫌でさァ」 「意味わかんない。営業妨害で訴えますよー」 「おまけ、そんなんじゃ満足できねェや。なまえがいい」 「は?」 あー、もう、ほんとこの人わけわかんない。 「今日、バイト何時に終るんでィ?」 「あと20分ぐらいで上がりだけど」 「ふーん、ちょうどいいや、待っててやらァ」 「だから何?さっきから全然話が読めないんだけど」 すると沖田はじっと私を見据えて言った。 「今夜、俺ん家来いよ」 あーあ、どうしちゃったんだろ、私。 沖田が格好良く見える。 「どーせ暇なんだろィ。ケーキのおまけに拒否権は無しですぜ」 そう言ったのはいつものにやにや顏だったけれど、あの一瞬、沖田が見せた本気の顔にやられたのは事実。 拒否権を奪われた私は、こくりと頷くことしかできなかった。 略奪サンタのプレゼント (来年はちゃんとバイト休みもらいなせェ) 121219 2012X'mas記念 I wish you a merry Christmas! |