天気が良ければ町へ買い物にでも行こうかと思っていたのに、今にも降り出しそうな空に出掛ける気も失せてしまった。 こんな日は、ひとりでゆっくりと本の世界に没頭するのがいい。 そう思って書庫に来てみたはいいものの、さっきから手に取る本がどれもこれも面白くない。 「はぁ…」 ため息をついて側にあった椅子に腰かければ、不意に強烈な眠気が襲ってきた。 昨夜、なかなか寝付けなかったせいだろう。 朝目覚めたときにはわりとすっきりしていたのに、今になって睡魔がやって来るとは…。 まぶたの重みに耐えきれず、そのまま眠気に身を委ねた。 *** あれからどのくらい経ったのだろう。 ふと目を覚ますと、そこには天井があって、椅子ではないふかふかとした柔らかいものに仰向けになっていた。 (あれ…?) 一瞬、わけがわからなくなって慌てて身体を起こすと、高い本棚が規則正しく並べられたお馴染みの光景が広がっていた。 どうやら私は書庫の端っこに設営されたソファーで眠っていたらしい。 けれども、眠りに落ちる前の記憶を辿ってみれば、確か本棚近くの椅子に掛けて眠ってしまったはず…。 寝起きの頭をなんとか働かせてみても、頭の中のはてなマークは増えるばかり。 「あ、やっと起きたさ?」 と、誰もいないと思っていたはずの背後から声がして、びくり、思わず肩を震わせるほど驚いた。 振り向けば、そこには案の定、声の主である彼がにへら、と人懐こい笑みを浮かべて立っていた。 「なまえってば、叩いても揺すってもびくりとも起きねェんだもん。おまけに椅子なんかで寝ちゃって…相当疲れてたんさね。」 聞けば、後から書庫に来た彼が椅子で眠り込んでいる私を見つけてソファまで運んでくれたそうな。 お姫様抱っこをされたらしい事実も聞いて、寝顔を見られた羞恥と共に顔が熱くなる。 「ごめん、ありがとう」 この気まずい空気から脱したくて、急いでソファを抜け出すと赤い顔を見られないよう彼に背を向けて足早に去ってゆこうと、した。 「ちょっと、待つさ」 「あ、えっ…」 けれども、にゅっと伸びてきた彼の手に腕を掴まれて、どくんと跳ねる心臓。 ちょっと私、どうしちゃったんだろう。 あいにくの天気に湿気を多く含んだ空気がただでさえ息苦しいのに、彼と二人きりの空間はまるで水の中にいるみたいだ。 「さっきから大丈夫さ?」 「え」 「顔、赤いし、呼吸苦しそうだし…」 だっ、大丈夫大丈夫! そう言って笑いたかったのに、心配そうな翡翠の瞳に見つめられると、なぜか言葉に詰まってしまう。 その視線から逃れようと俯いたら、彼のもう一方の腕が伸びてきて、私の前髪を掻き上げ額に触れた。 ぴとりと生温い彼のぬくもりを額に感じて、心臓はうるさいほどに鼓動を速めている。 「熱は、なさそうさね」 「だから、大丈夫だよ」 「一応医務室行くさ?」 「平気だって!」 「……ね、こっち向いて」 「…な、何?」 「もしかして、こゆこと?」 言うが早いが、視界が一瞬、朱色に染まる。 それと同時に香水なのかシャンプーなのか、いつも遠くに嗅いでいた彼の匂いが鼻腔いっぱいに広がり、唇に柔らかな感触があった。 「…図星さね」 にやり、離れて意地の悪いけれどもどこか楽しげな表情を浮かべて、彼は笑った。 きっと私は目も当てられないほど赤く赤くなっていることだろう。 その感情が彼にばれたと知ってどうすることもできずに立ち尽くしていたら、見透かしたような彼の声が耳元を擽った。 「なまえ、好きさ」 ややあって、こくり、頷けば、そっと優しく抱きしめられた。 外は相変わらずの雨模様。 けれども太陽のような彼の匂いに包まれて、心はぽかぽか暖かかった。 こんな雨の日には (ふたりでのんびり太陽をみよう) 160109 最近ラビきゅんの登場シーンが少ないせい(お陰)で妄想が捗る捗る…。 title「確かに恋だった」様より |