昼下がりの食堂で、遠くに目立つオレンジ色を見つけた。

反射的に柱の影に隠れようとしたけど手遅れで、目が合うと満面の笑みで手を振ってきた。
仕方なく、わたしも小さく手を振り返す。



「隣、座ってい?」



返事を聞く前に座ってしまっては、嫌とは言うこともできない。
決して嫌いなわけじゃないけれど、わたしは始めて会ったときからどうしてもこの人が苦手だ。



「こんな時間に食堂にいるなんて珍しいさね」

「お昼、食べ損ねちゃったから」

「仕事か?科学班も大変だなー、ぜってーコムイが原因だろ」

「ん、まぁ、ね…」

「頑張ってんなー」



そう言ってぽんと肩を叩かれた。
それだけで心臓がびくりと飛び跳ねて、食べていたパンケーキが口から出そうになる。
それでも彼はお構いなしだ。



「それ、うまいんか?」

「え、うん、美味しいよ?」

「一口ちょーだい」

「…え?」

「あーん、て」



口を開けて待つ目の前のオレンジくんに、わたしは一瞬わけがわからなくなった。

あーん?
…いや、まさか。

そんなこと、できるはずない。



「早くー」



おねだりするかのように口を尖らせて催促されたって、困ってしまう。

こんな公共の場で、そんなベタなことできない。
だけどそれをしないと、この厄介なオレンジくんは引き下がってくれそうにもなかった。
腹を括ったわたしは、一口分のパンケーキをフォークに刺して持ち上げた。
幸い、食堂に人は疎らで周りに人はいない。



「…はい」



もぐもぐもぐ。

美味しいかどうかなんて聞かなくてもわかるぐらい、オレンジくんは本当においしそうな顔をした。
当たり前だ、だってジェリーさんのお手製だもの。



「やっべ、オレ今ちょー幸せ」

「ジェリーさんに頼んで、作ってもらえば?」

「んや、いーの」



満足そうに笑う理由が、わたしにはよくわからない。
もしかしたら、違うものを食べにきたのかも。
そう思ったけれど、彼は一向に席を立とうとせず、何でもないような話を隣でぺらぺらと喋るだけだった。



「あの、さ…」

「何さ?」



ちょうどパンケーキを食べ終わったところで、聞いてみる。



「食べないの?」

「んあ?」

「せっかく食堂に来たのに、何も食べないの?」

「ああ、別にそんな腹減ってねーから」



だったら何でわざわざ食堂に来たの?

そう問う前に、またしても先を越されて答えられてしまった。



「なまえがいるって聞いたから」

「…え、あたし?」

「ん、そう」



何でもないような顔でそんなことをさらりと言ってしまえるのは、きっと彼だからだ。
聞く人が聞いたら、完全に勘違いしてしまうに違いない。

だけど彼が軟派なのは教団でもよく知れた事実だから、わたしはできる限り意識しないように努力した。
やっぱり、この人が苦手だと思う。



「あの、わたし、そろそろ仕事戻るから…」

「じゃあ、科学班まで送るさ!」

「だ、大丈夫」

「いいって遠慮すんな」

「…うん」



もはやこの人には何を言っても無駄だという事を、このわずか5分のうちに学習した。
だから諦めて科学班のラボまで廊下を並んで歩いた。

突き刺さる視線が痛い。
それもそうだ、一端の科学班見習いとエクソシストの彼が一緒に歩いてるなんて、滅多にない光景だ。
誤解を招きかねないこの状況を脱しようと、距離を取って歩こうとした。

が、しかし。



「なんさー、よそよそしい。別に離れなくってもいいじゃんか」



がしりと手を掴まれた。
というか、そのまま肩を抱かれてしまった。

ああもう、誤解どころの話じゃないぞこれは。



「ちょっと、何し…」

「オレのこと苦手って思ってんだろ」

「は、え?」

「図星さね。でも、耳は真っ赤さ?」

「だ、だって…」

「言っとくけどオレ、なまえのこと本気で好きだから」

「っ、えええ?」

「じゃな、仕事頑張れ」



ラボに着くなり、勝ち誇ったように笑顔を見せて歩いて行ってしまった彼にわたしは完敗。

やっぱり、この人が苦手だと再確認した。



hard to deal with
(扱い方が難しいのはお互い様)



130218
只今絶賛スランプ中。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -