「俺、好きな奴いるんだ」 本当に申し訳なさそうに俯いた彼は、たった今私がありったけの勇気を絞り出して好きだと言った人。 その言葉の意味を理解してからややあって、ずんと心臓に鉛を押し込められたみたいになった。 どうやら私は、フラれたらしい。 「だからごめん、みょうじさんの気持ちには答えられない」 「…うん」 「ほんと、ごめん」 別に悪いことした訳じゃないんだから、謝らないでよ。 顔の前で手を合わせてぺこぺこと頭を下げる彼に、無性に苛々した。 けれどそれは、単なる私の身勝手な考えだ。 そんな自分に嫌気が差し、同時にやり場のない感情がどっと胸に押し寄せて来た。 もう、限界だ。 その人が教室から出て行くと、まるで防波堤が決壊したように次から次へと涙が止めどなく溢れた。 「っく、…ぅ」 「やべ、忘れもん…って、なまえ?」 心臓が止まるかと思った。 不意に教室の扉が開いて入って来たのは、隣の席の銀時だった。 恋の相談役としてたまに話に付き合ってもらってたから、多分事情は解るだろう。 「何、泣いてんの」 「う、っく…察してよ、バカ」 「あー、玉田くんか」 「誰それ」 「あれ、違ったっけ?んじゃあ、鎌田くん?」 「もういい…っ、ほっどいで」 「オイオイ、色んなとこから汁垂れてんぞ」 ほれ、と渡されたティッシュを受け取ると、思いっきり鼻をかんだ。 ついでに涙も拭う。 そしたら、少しだけすっきりした気がした。 「…仲田くん、好きな人居るんだって」 「ふーん、仲田くんだったか」 「フラれたの、私」 「へぇー」 「告わなきゃよかった」 「どんま」 「何かむかつくな」 「んま、初恋は叶わねーらしいからな」 しらっと言った銀時に、成る程そうかと納得する。 きっと私は、フラれた理由を何かのせいにしたいんだ。 「今更だけど、あれって恋だったのかな?」 「そーじゃね?」 「マジか」 その割には、もう半分忘れかけている。 案外、失恋の傷は浅かったらしい。 「次はいい恋できるんじゃねーの」 「だといいんだけどね」 「何なら俺とします?」 「…え?」 「あ、いや、次は坂田くんとどうですかねって話」 「えー、銀時と?ないないない!」 だって銀時は親友だもん。 そう言ったら、何故か銀時は目に涙を浮かべながら笑うから、私の涙が染み込んだハンカチを渡してあげた。 「やっぱり、初恋は叶わないってマジかもな」 「何、急に」 「いや、別に」 その法則が崩れるのは、また先の話。 塩辛いハンカチ (あと一歩、勇気を出して!) 121202 |