好きだからって、彼女の秘密を全て知ろうなんてそんな野暮なことは思わない。
付き合っているからといって、彼女を保護する義務もなければ独占する権利もない。

つまり、よくよく考えてみれば赤の他人同士なのだ。
お互いがどうしようと、個人の勝手。
アイデンティティーを大切にするなら、そのぐらい割り切っていたほうがちょうどいい。



「見て見てー!これ、可愛いでしょ。アレンからのお土産なの」



それなのに、前髪につけた見知らぬ髪留めを自慢気に見せるなまえが、俺はどうしても嫌だった。

怒っているのとは違う、もっと複雑で入り組んだ感情だ。
例えるなら、雷雨が降る前の空の雲のような感じ。



「ふーん」

「似合わない、かな?」

「んや」

「よかったー」



屈託なく満面の笑みを浮かべる彼女。

頼むからそんな素直に喜ばないで、笑わないで。
心の内でそう願う。



「アレンって、わたしの好みよくわかってるんだよね」

「へぇ」



だって当たり前だろ。
アイツもお前のこと狙ってたんだから。
いや、正しくは狙ってる、か。
なまえが俺と恋仲になった今でも、隙あらばいつでもかっさらう気でいるようだ。



「ちょっとアレンとこ行ってくる!」

「は?おい、待つさ」



咄嗟に掴んだ細い腕。
それをきょとんと不思議そうに首を傾げて見つめる、無自覚で危なっかしい彼女。

何やってんだ、俺。



「どうしたの?ラビ」

「行くな」

「え?」

「アレンとこには行くな」



わけがわからない。
俺にそんな権限はないはずだ。
でもアイツのところへはやりたくない、ここに居てほしい。

そんなのおかしい、矛盾してる。



「でも、アレンにお礼言わなくちゃ」

「いいから」

「何で?全然よくない」

「そんなの、捨てろよ」

「え…?」



何言ってるんだよ、何様のつもりだ。
俺はそんなに偉いのか?

ややあって、ようやくその言葉の意味を理解したなまえはじわりじわりと目に涙を浮かべて叫んだ。



「ラビの馬鹿!」



ごもっとも、その通り。
だから何も言い返せない。



「何でそんなこと言うのっ…」



なまえを泣かせたのは、アレンじゃなく俺だ。
かっこわるい、だらしない。
彼女の一体何を知ったつもりでいたのか。



「…アレンとこには行くなよ」



なのになんで、泣いた彼女を引き止める?
なんでこんなにも不安になるんだ?
その薄い体を抱きしめるのは、彼女のためか、はたまた自分のためか。

もう、どうだっていい。



「なまえ、好きさ……愛してる」

「うん…」

「だから」



だからお願い、俺だけを見てて。
そんなことは女々しくて言えないけど。

抱き締めたまま、背中を丸めて、彼女の首元へ口を這わす。



「ラ、ラビっ…!?」



慌てているようだが抵抗しないのを見て「よし」の反応だと判断し、襟元に深く吸い付いた。
ちゅ、最後にわざとらしくリップ音を立てて唇を離すと、白い肌に鮮やかな赤い小さな花が咲いた。

ああもう、めちゃくちゃだ。
独占欲なんてもんじゃない。
理性を保っていられるのが不思議なくらいだ。



「なまえは誰にも渡さないさ」



焼印のごとく印を刻み込んだ俺は、もう一度彼女を強く抱き締めた。



安楽
(君に溺れて死ねるのなら本望)



130207
オールの危ないノリで書いたので注意!(今更ですが)
ブックマンJr.は葛藤するも惨敗で、少し大人だといい。


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