「ただいま」


その声を聞くだけで、徹夜続きで怠い体が蘇るような気さえする。



「おかえり」



思わずそのまま彼女の細い体を抱きしめれば、じわりと伝わる懐かしい感触。



「リーバ、痛いよ」



困った顔して、でも笑いながら言うなまえにはっとして手を離した。

よくよく見てみれば、大きな怪我はないものの所々白い肌が擦りむけていた。
よくもまぁ、こんな頼りない体で頑張ったものだ。
見ているだけで、その健気さに胸が押しつぶされそうになる。

ただ無事を祈って待っていることしかできない俺は、その無事をしっかり受け止めてやることもできないのだろうか。
情けない。



「消毒してやるから、そこ座ってな」

「大丈夫だよ」

「大丈夫じゃない」

「い、医務室行くし!」

「何で」

「何でって…」

「大人しく座ってろ。ココアでも飲むか?」

「…うん」



任務で疲れているのかどうなのか、今日の彼女はすんなりと言うことを聞いて、今まで俺が占領していた一人掛けの椅子に収まった。

程なくして、ココアの入った彼女専用のマグカップと、大量の書類の下に埋れていた救急箱を持ってくる。

マグカップを受け取り手の平を温めるように両手で包んだなまえは、やっと緊張がほぐれたかのように微笑んだ。



「おいしい」

「よかった」

「…ねぇ、リーバー」

「ん?」

「ごめんね。迷惑ばっか掛けて」



意味がわからない、そういうニュアンスを込めた表情を返すと、彼女は申し訳なさそうに目を伏せた。



「だって…また仕事増やしちゃった」

「別にいいさ、俺が勝手にしてることだし」



消毒液を含ませたガーゼをぽんぽんと優しく傷口に当てると、痛むのかその表情が少しだけ強張った。

面倒臭がり屋のなまえのことだ、どうせあのまま放っておいても医務室に行くとは思えない。
それに、久しぶりの帰還で少しでも一緒に居たかったと言う、勝手極まりない口実のためだったりもする。



「リーバーはいつも優しいね」

「そうか?」

「あんまり優しくされると、任務に行くのが辛いよ。ホームシックになる」



冗談目化してくすくす笑う彼女に、俺もつられて笑みを返す。

いつものことながら、自然と心が和んだ。
この感じがたまらなく好きだ。



「じゃあ、いつでも待っててやるよ」



だから無事で帰ってきて。

そんな意味を込めて頭をくしゃくしゃと撫でれば、ありがとう、と照れたように笑った。

その笑顔だけで徹夜仕事も頑張れる、なんて、彼女は知らないだろうけど。



「腹減ったろ、食堂行くか」

「うん」



久しぶりに繋いだ手は、ココアの熱を受けて笑顔に劣らず温かかった。



満ち足りた世界
(君が無事でさえいてくれれば、それだけで充分)



130124
個人的にけっこう班長好きだけども、いざとなると難しい…。


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