一目惚れなんて、あるわけがない。 いや、そもそも僕は、お通ちゃん以外の女の子に熱をあげるなんてあってはならないんだ。 そう自分自身に言い聞かせて、わけのわからないこの心臓の高鳴りを落ち着かせようと努力した。 けれどもそれはなかなか困難で、僕の自制機能は壊れてしまったらしい。 「あの…」 少々遠慮気味に困惑した面持ちで僕を見つめるその子は、なんて言うんだろう、すごく魅力的で自然と顔が熱くなる。 「すみません、手…」 「っ、ごめんなさい」 彼女に指摘されてようやく僕はその手をしっかりと握っていたことに気がついた。 慌てて手を離すと、その間にあった百円玉がちゃりんと音を立てて床に落下した。 ついさっき、彼女が拾って僕に渡してくれたものだ。 「あっ」 ちゃぽん。 転がった百円玉は、虚しい音とともに路上脇の排水溝の中に消えた。 「すっ、すみません!」 「あ、いや、大丈夫」 「で、でも…」 眉を下げて口篭るこの子はまるで小動物みたいだ。 不覚にも“可愛い”と思ってしまった僕は、全力でその気持ちを否定した。 何があってもお通ちゃんだけに着いて行くと決めたじゃないか。 寺門通親衛隊隊長、という肩書きは重い。 「本当に大丈夫だから、気にしないでください」 正直、常時火の車状態の万事屋の経営を思うと百円すらも無駄にできない。 けれども、これ以上この場にいると僕は僕でいられなくなるような気がした。 つまり、親衛隊として冒してはならないタブーを踏んでしまう気がしたのだ。 「じゃ、じゃあ、僕急いでるんで」 もちろんそれは単なる口実で、早くこの状況から逃げ出したい一心だった。 すると何を思ったのか彼女は急いでポケットを探り、一枚の紙を渡してくれた。 よくよく見てみると、それはいつか銀さんが行ってみたいと話していた甘味屋の割引券だった。 「これは…?」 「私、そこでバイトしてるんです。百円のお詫びと言ってはなんですけど…よかったらどうぞ」 ふわりと笑ったその子は、天使というよりも最早女神。 嗚呼、何て過酷な運命なんだろう。 どうやら僕は、親衛隊隊長としてはあってはならない禁忌を冒してしまったのかもしれない。 アウトローの定義 (恋をするのは許容範囲であってほしい) 130101 まさかの年明け一発目が新八くん。 あけおめことよろ! |