そういえば、ここ一ヶ月任務が立て続けにあったせいで報告書を書く暇がなかった。 けれどもそんなのは言い訳で、任務がひと段落した今、最優先に片付けなくてはならない。 僕はあくびを噛み殺し、気怠い身体を奮い起こして渋々ペンを握った。 さて、今夜は徹夜覚悟かもしれないな、と心の中でひとり呟いては溜息をつく。 「アレンくん?」 そんな時、懐かしい声が僕の名を呼んで、半分夢の中へ落ちかけていた意識をぐいっと呼び覚ました。 「やっぱりアレンくんだ!いつ帰って来たの?おかえりなさい」 きらきらと目を輝かせてパタパタ駆け寄って来たのは、僕よりも一つ年上のエクソシストであるなまえ。 僕の愛しい愛しい彼女だ。 「ただいま、なまえ」 「大きな怪我しなかった?大丈夫?」 そう言って心配性の彼女は、僕の無事を確かめるように服の上からぺたぺたと体を触る。 久しぶりに会って、ただでさえ色々と考えてしまう僕にとって、これで何もしないのはある意味拷問に等しかった。 「うわ、ここ痛くない?少し切れてる」 僕の額に傷を見つけ、手当てしなきゃと立ち上がったなまえの腕を、ぐいとつかんで引きとめた。 「アレンくん?」 「僕は、大丈夫です」 「でも、早めに処置しないと…」 「ほっとけば治ります」 「一応、消毒ぐらいしとこうよ」 「いいです、そっとしておいてください」 焦る気持ちもあってか、少し強めの口調になってしまった。 なまえは一瞬、困惑したように口を噤んだ。 「もしかして、怒ってる?」 「別に怒ってません」 「だけど…」 しゅん、と俯いて口籠ってしまったなまえに多少申し訳ない気もしたが、こうもしないと平静を保っていられそうもなかった。 とにかく僕は今、報告書を仕上げることを最優先に考えなくてはならない。 できる限りの理性で心を固め、邪念を振り払うようにペンを握り直した。 「本当にいいの?そのままで」 「はい」 「治りが遅くなっちゃうよ?」 「はい」 「アレンくんが傷ついてんの、やだ」 頼むからもうこれ以上抱きしめたくなるようなことは言わないでくれ。 僕の理性はひび割れた硝子のように脆くなっている。 「アレンくんの馬鹿」 怒っているのか拗ねているのか、多少顔を紅潮させて潤んだ瞳で言ったその言葉に、僕はどうしようもなくなった。 今のは反則、なまえが悪い。 「んっ…、!?」 奪うようにキスをすれば、困惑したような表情がよく見えた。 長い長いキス。 ようやくなまえを解放すると、真っ赤な顔で怒られた。 「なまえが悪いんです。あんな顔されたら、いくら僕でも放っておけません」 「でも」 「ラビが見たら、有無を言わずに襲われますよ?」 「…そしたらイノセンスで撃退する」 「あーあ、ラビ可哀想に」 「それ、全然可哀想って思ってないよね」 「とにかく、報告書書き終わるまではおとなしくしててもらえますか?」 相変わらず危機感のない彼女はきょとんと僕を見て首を傾げた。 「僕も一応男です。次はキスだけで終わらせる自信がありません」 それでもいいんですか? そう訊くと、なまえはふるふると首を振っておとなしく向かいの席にとどまった。 「可愛いですね」 俯いて表情は見えないが、髪の間から覗く真っ赤な耳にまた衝動に駆られたのは、秘密。 早いとこ報告書を完成させて、思いきりなまえを抱きしめよう。 愛執ジレンマ (結果、全然仕事に集中できません) 121225 年上だけど幼い彼女が好きすぎる年下の彼。 ふれてないけど、アレンくんおめでとう! |