言うなれば、神出鬼没。

ふらりと現れては、ふらりと居なくなる。

猫みたいに気分屋で、狐みたいにずる賢い。


そんな彼は、今日も不意にやってきた。



「やァ、いい天気やね。なまえチャン」

『っ、市丸隊長・・・』



この度に、寿命が縮まるかと思う。

そのぐらい吃驚するのだ。



「なんや、そないに嬉しそうな顔して」

『してません』

「つれないなァ・・・」

『隊長、お仕事は?』

「イヅルがやってくれはるわ」



そう言って、彼は愉快そうに笑ってのけた。

こんな無責任な我が三番隊隊長に、いつものごとく呆れる。

それでもその尻拭いをするのが三番隊隊士の務めだ。

吉良副隊長の苦労が思いやられた。



「重そうやね、半分持とか?」

『大丈夫です』



市丸隊長は隣を歩きながら、私の腕の中に抱えた書物の束を見て言った。

この人がこんなことを言うなんて珍しい。

その笑顔の下にある目論見を疑って、私は平気な素振りを見せた。

実際は腕が痺れるほど重い。



「いーから貸してみィ」

『大丈夫ですって』

「・・・ボクのこと嫌いなん?」

『なんでそうなるんですか・・・』



そう言われてしまえば、反論する事もできない。

結局、隙をついて書物は市丸隊長の腕の中へ渡ってしまった。



『・・・ありがとうございます』

「何処まで運ぶん?」

『書物室です』

「なんや、残念やなァ。すぐそこやんか」

『はぁ』



よくわからない発言に疑問符を浮かべ気の抜けた返事をすると、隊長は「まぁ、ええわ」と言って前を向いた。


つかつかと先を歩く市丸隊長。

その飄々とした背中は、何を考えているのかわからない。

一体、何が目的でこんな親切をしてくれるんだろう。

そう疑ってしまう私は、心が捻くれているのだろうか。


それから程無くして、目的の書物室に到着した隊長は足を止めた。



『・・・助かりました。後は私一人で出来ますんで』

「あ、そう?」



以外にもあっさりと書物の束を返されて、私の腕は再びずっしりと重くなる。



「ほな、後は頑張って」



くるりと踵を返して去っていく背中に唖然としながら、自分の的外れな考えに自嘲した。


なんだ、いつもの気まぐれか。


ほっとする反面、少し虚しい気がする。

腕の中の束を書物室の棚に戻しながら、私は大きな溜息をついていた。

なんだろう、この心のモヤモヤは。

たまに現れては気まぐれに意地悪を言い、そうかと思ったら優しさを見せる。

気分屋で、ずる賢くて、無責任で、理解不能。

もしもランク付けするならば、「苦手な人物」部門ダントツの一位だろう。

だけど多分、「嫌いになれない人物」部門でもダントツの一位だ。


って、ことは・・・?

このモヤモヤの正体は一体・・・



「まだ、おったんか」



本日二度目の寿命が縮まる瞬間。

まさかと思って入り口の方を向けば、やっぱりそこには張り付いたあの笑顔。



「さっき言いそびれとったけど・・・」



ぽかんと立ち尽くす私に隊長は相変わらずの笑みを浮かべる。



「今度の日曜、空けといてな。キミと行きたい場所があんねん」



それだけ言うと、またすぐにふっと何処かへ行ってしまった。


本当に、ずるい人だ。

でも、強引で理不尽なところが隊長らしいと納得する。

やっぱり、三番隊隊長はこうでなきゃ。

隊長が立ち去る直前、向けられた笑顔がいつもより少しだけ楽しげに見えたのは気のせいかもしれない。

それでも、私がその一週間、日曜日を心待ちにしていたのは言うまでもない。



それはまるで、

(なァ、なまえチャン)
(はい?)
(ボクのこと嫌い?)
(いえ・・・寧ろ)




2010.11.14
(京都弁は難しい…)


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