新八は散らかった部屋を片付けながら掃除機をかけている。 『ただいまー』 「あ、なまえ。お帰りなさい」 「・・・それ何アルか?」 どさりとテーブルに置いた大江戸スーパーの袋の他に、取っ手つきの四角い箱があるのを見つけて神楽が目を輝かせた。 『ふふっ、ケーキだよ。近くに新しいお店ができたの。おやつに皆で食べようと思ってさ』 「私、ショートケーキがいいネ!」 早速、神楽が箱を開けて中身を確認する。 定春も匂いにつられたのか、欠伸をしながら居間にやってきた。 『あれ、銀ちゃんは?』 そういえば・・・、と思い出したようにきょろきょろと居間を見渡してなまえは訊いた。 今朝から銀時の姿が見えない。 「あぁ、銀さんならまだあっちの部屋で寝てますよ。昨日遅くまで長谷川さんと飲んでて二日酔いがひどいみたいで・・・」 と、新八が答えた。 どうりで昨日の帰りが遅かったわけだ。 帰ってくるなりただいまも言わずに布団に入ってしまったのも頷ける。 二日酔いなら、ケーキなんて食べられたものじゃないだろう。 『なんか、銀ちゃんに悪い事したね』 「まぁ、しょうがないですよ」 「そんなの自業自得ネ。早く食べようヨ!」 「ワンっ!」 定春もケーキを食べたそうにパタパタと尻尾を振って急かしている。 『じゃ、食べよっか』 気を取り直してそれぞれのケーキをお皿に取り分けると、テーブルを囲んで手を合わせた。 『「「いただきまーす」」』 +++ 「ふぅ〜、満足ネ・・・」 結局、銀時の分まで神楽が平らげた。 神楽は再びソファーに座ってテレビを見ている。 定春も隣で静かに丸くなっていた。 新八は何か用が出来たとかで、ケーキを食べ終えると外に出て行った。 あの甘党のことだ。 今日のことを聞いたら怒るか、いじけるか、悔しがるか・・・ いずれにしても、銀時に見つかる前にこの食べ終えた残骸を片付けよう。 なまえは使った皿やフォークを慣れた手つきで洗い始めた。 三人分の食器(と、定春のえさ皿)を洗い終えるには10分もかからない。 それらをきれいに拭いて、食器棚に元通り片付ければ、証拠隠滅作業はすぐに終わった。 『これでよし』 ぱたんと棚の戸を閉めて、居間に戻ろうと振り返った時だった。 「何がよしなの?」 『っ、銀ちゃん』 そこには、天パの頭が寝癖でさらにボサボサになった銀時が立っていた。 びっくりした・・・ 心臓が止まるかと思ったじゃん。 『起きたんだ。どう?調子は?』 「あー、まだ頭いてェ・・・」 そういう銀時は本当に調子が悪そうで、少し顔色が悪い。 『水飲む?』 「サンキュ」 『・・・はい』 コップに水を注いで渡すと、銀時はそれを一気に飲み干した。 『もう一杯いる?』 「いい。大丈夫・・・それより――」 ぎくっとなまえは身構えた。 案の定、銀時は不機嫌そうに手に持った物を前に出して訊いてきた。 「これ何?」 しまった。 テーブルの下に置いていたケーキの箱の存在を忘れていたのだ。 『あっと、これは・・・』 こうなったら、正直に謝るしかない。 『・・・ごめん』 「・・・。」 『銀ちゃん寝てたからさ・・・』 「・・・うん」 素っ気無い返事。 果たして、銀時は怒っているだろうか。 『また買って来るから・・・ごめんね』 「いーよ。別に」 まだ不満そうな顔はしているが、差し当たり怒っていないようだ。 「けど、ずりーよな」 そんな不服に返す言葉が見つからず、曖昧に視線を泳がせる。 するといきなり、ふわり、と銀時の腕が背中にまわってきた。 『へっ?』 困惑する頭は、ぼんやりと熱を帯びている。 あたふたとそのままの格好で居間のソファを見れば、神楽も定春も気持ち良さそうに寝息を立てていた。 『・・・ぎん、ちゃん?』 「あー、ダメだ。頭ガンガンする」 まだ昨日のが残っているのか、少しお酒のにおいがする。 「俺もなまえと食いたかったんだけど」 『・・・あの、銀ちゃん?』 理解できずにもう一度小さく名前を呼ぶと、不意に唇を塞がれた。 「とりあえず、糖分補給?」 唇を離して銀時は言う。 耳元で喋る声がくすぐったい。 ぎゅーっと抱きしめられてなまえはどうすることも出来ず、ただただ顔を真っ赤に染めていた。 「ケーキより、こっちのが全然いいかも・・・なんてな」 キミ≠糖分 (どんなお菓子よりも甘い魔法) 2010.09.26 |