『・・・・』 「なぁ、なまえー」 『・・・・・』 ・・・あれ、シカト? それとも気付いてない・・・ワケないよな。 「おーい、なまえー?」 『・・・・』 ・・・完全無視? 彼女に呼び掛けて無視し続けられる彼氏ほど不憫なものはない。 もういい。 次が最後だ。 「なぁ、おぃ、なまえ?」 『・・・っあぁ、ラビか』 最後の最後で、やっと気付いたように反応するなまえ。 読んでいた本から顔を上げてラビを見る。 「さっきからずっと呼んでたんだけど」 『ごめん、気付かなかった』 そう謝られてしまえば責めるわけにもいかない。 まぁ、なまえのことだから悪気は無いんだろう。 ・・・仕方無い。 と、ラビは自分で自分を慰める。 『・・・で、何か用だった?』 「あー、えと・・・今日、非番だろ?」 『うん』 「んじゃ、どっか出掛けね?」 さらりと言った自分に驚きだ。 ラビは言ってから照れたようにヘラヘラと笑いだす。 ・・・だってこれ、俗に言うデートってヤツだろ? そういや、付き合ってからそんなのもしたことなかった。 イチャつくのをなまえが好かないのは知ってる。 けど、デートなら手ぐらい繋いだっていいよな? 少しは恋仲らしく見えるだろう。 しかし、そんなラビの目論見を、なまえは無神経な一言で片付けた。 『やだ』 「・・・は?」 思わず動きが止まってしまう。 思考回路が上手く繋がらない。 脳味噌をフル回転させるが、出てきた疑問はただ一つ。 「・・・何でさ?」 『だって、今、本読んでるし・・・ 買い物ならリナリー達と行ったら?』 ・・・おいおい。 それじゃ、リナリーとデート行けってことか? 俺、本に負けた? いや、この様子だと全く俺の言葉が伝わってないのか。 そんな事を悶々と考えてる内に、なまえはまた本に夢中になり始める。 「・・・はぁ」 ラビは諦めて、深い溜息をついた。 好きで好きでたまらないのに、上手く伝わらないもどかしさ。 いや、言ってみても伝わらない彼女の鈍感さか・・・ ハグも無ければチューもまだ。 付き合い始めて半年、カップルらしいことなんて一つもしたことない。 積極的になればそれで済むことだが、それはしない。 理由は簡単。 ――なまえに嫌われたくないから。 今までの俺だったら有り得ない話だけど、それを好まない彼女に強いて嫌われたくなかった。 大事にしたいから抑え込むキモチ。 けど、もう限界だった。 ――本当に俺ら、付き合ってんだよな…? そんなくだらない不安と、抑制するほどに膨らむキモチがごったになる。 『・・・っちょ、ラ、ラビッ!?』 気付けば本を読むなまえを後ろから抱き締めていた。 あたふたと本を閉じて首だけ後ろに向けるなまえ。 いつもより近い緋色の髪の毛が、頬を擽る。 『・・・ラ、ビ?』 速くなる鼓動。 熱を帯びる頬。 突然のことに困惑する。 『・・・どうしたの?』 いつもと違う彼の様子に、静かに訊ねた。 回された腕にぎゅっと力が入る。 「・・・好きさ」 ぽつりと囁かれた、切ない声色。 その聞き慣れたフレーズの意味を、なまえは漸く悟った。 『うん。 私も・・・好きだよ』 俯き気味に言ったなまえの言葉に、ラビの不安はすっと取り除かれる。 大丈夫。 俺もなまえもお互い想ってんだ。 ・・・何も怖くない。 『ね、ラビ。 そろそろ苦しい・・・』 「っ、悪ィッ」 我に返ってバッとなまえから離れる。 何やってんさ・・・オレ。 「ご、ごめん」 自分を恥じらい、ラビはそそくさとその場にから逃げようとした。 『ま、待って』 が、立ち去ろうとしたラビをなまえは慌てて呼び止めた。 今にも泣き出しそうなその顔を見て、ラビは戸惑う。 ――嫌われたか・・・? 「っ、ホント悪かったさ。 もう絶対ェしねーから・・・」 『ちっ、違うの』 「・・・え?」 『その・・・・・・なんか嬉しかった』 拍子抜けな言葉にラビはきょとんとなまえを見た。 『ラ、ラビならいいかなって・・・』 早口に言って、俯くなまえ。 赤く染まった耳がちらりと見える。 「・・・マジで?」 こくんと小さく頷いた彼女を、こんどは躊躇いなくしっかり抱き締めた。 「〜っ、良かったさぁ。 オレ嫌われたかともった」 『・・・ごめん』 「何でなまえが謝るんさ」 『だって・・・ずっと我慢してたんでしょ?』 「え? あぁ、まぁ・・・」 正直、嘘もつけなくなっていた。 『いいのに、・・・ありがと』 クスッと可笑しそうに笑うなまえに、ラビは羞恥からそっぽを向く。 嫌われたくなかった。 けど、抑えきれなかった。 なまえは知ってたんだ。 そんな俺の気持ちに。 「・・・じゃあ、さ」 『ん・・・?』 ――ちゅっ その小さな唇に想いを重ねる。 『っ、』 「・・・嫌だったさ?」 なまえは一瞬、驚いたようにラビを見たが、事がわかると顔を真っ赤に染めてはにかんだ。 『ラビなら・・・いい、や』 俺だけの特別な存在。 それを意味する言葉。 「んなこと言われたら、照れんさぁ」 『・・・馬鹿ラビ』 ラビがケラケラとからかうと、なまえは更に顔を赤くして拗ねたように言った。 ――愛しい彼女。 思わず緩む顔を誤魔化して、ラビはなまえの頭を撫でた。 「オレら、やっと恋人らしくなったさ?」 『さぁ・・・ね?』 抱き締めたなまえの体温が、俺の心を温める。 心臓が煩く音を立てているのはお互い様だった。 ・・・なまえの全部が大好きさ。 fin. |