静→←?臨←猫気味
少し肌寒くなって来た今日この頃。彼等が池袋で命懸けの追いかけっこをしていた時のこと。今日の主役はそんな二人と可愛い可愛い猫達である。
発情期です
季節の変化はめぐりめぐって冬になった。クリスマスも近付いて色めき立つ池袋で、折原臨也は息を切らしながら走り回っていた。これはそんな彼が静雄を撒くために路地裏へと入ってからの話である。
臨也が静雄から逃げる為に走っていると後ろからニャアと声がした。チラリと後ろを向くとトタトタと後ろを追いかけて来る猫がいた。いくら走ってもついて来る猫に無駄と分かっていても声を掛けてしまう。
「ごめんね猫ちゃん。君を構ってる暇は無いんだ。」
困ったような声を出してそう言ってみるも、やはり猫は後をついてくるままだ。
このままでは自分達の喧嘩に巻き込んでしまうかもしれないと珍しく心配をしだすと、気になってしまってしょうがない。
臨也は仕方ないとため息をつき廃ビルの階段を駆け上がり途中で隣のビルへと跳び移った。そのままパルクールの技術を駆使し縦横無尽に駆け回り静雄と一緒に猫も撒いて仕舞おうと考えたのだ。
ある程度走り続けて、もう大丈夫だろうと脚を止めると、後ろから沢山の足音が聞こえて臨也は固まる。
まさか…と後ろを振り向くと視界一杯に猫の群れが襲い掛かってきたのだった。
「…うわっ!」
続々とやって来る猫に目を丸くしていると、沢山の猫達の奥から金髪頭が見えた。
「てめぇ何企んでやがる!またたびでも持ち歩いてやがるのか!?」
顔周辺にいる猫達をどけると手に標識を持った静雄が肩を震わしていた。
どうやら猫達のおかげで臨也を攻撃することが出来ないらしい。
「馬鹿言うなよ。俺は人間が好きなんだ。猫と戯れる趣味は無い。」
臨也がそう言うと静雄は舌打ちをして標識をコンクリートに突き刺した。
「そうかよ。で、何でこんな事になってんだ?」
「…俺が聞きたい…ひぁっ」
そんな事知るかと睨んでやると、臨也によじ登っていた猫にぺろりと耳の裏を舐められ、つい変な声が出てしまった。
「あぁ?…何だ今の声」
「…猫に舐められてビックリしただけだよ」
臨也は恥ずかしさから顔を赤らめてそっぽを向いてしまった。
「あー、とにかく何とかしないとな。猫にノミ蟲臭が移る。」
静雄がそう言って近付こうとすると猫達がキーっと唸って威嚇をし始めたから大変だ。
何だ俺はモテモテか。と頭の中で考えたのもつかの間、別の猫達が臨也の顔やら手やらをぺろぺろと舐めはじめた。
「ちょっ…くすぐったい!」
猫相手にナイフを使うわけにもいかず、掴んでは離してを繰り返す。
それを何度も繰り返していると静雄がポツリと呟いた。
「おい…行くぞ」
「…は?」
気が付くと臨也は米俵のように担がれていた。
「降ろせ!」
臨也は何度か殴って抵抗を見せたが効くはずもなく。静雄は無言で走り続けた。アパートの壁を勢いだけで駆け登って、屋上にたどり着くとやっと臨也を降ろした。
もちろん肩はガッチリと握られたままだ。
「シズちゃん…痛いんだけど」
「うるせぇ」
「はぁ…何でいきなり走り出したのさ。君、動物好きだろ?見事に蹴散らしていたけど。」
臨也が嫌みっぽくそう言ってやると静雄はキレる事もなく答えた。
「…俺は、」
「うん?」
「…俺は、猫より犬派だ」
コイツは一体何の話をしているのだろうか。話が若干噛み合っていない気がしてならない。
「…意味解んないんだけど」
「発情期にでもなったんじゃねぇの?手前がエロいから猫も欲情したんだろ」
真顔で言ってのける静雄に臨也は目を見開いた。
つまり俺のフェロモンか何かで猫が寄ってきたと言いたいのだろうか。
「俺は、猫より犬派だけどよ。あいつらの気持ち解るぜ。」
あいつらとは先程の猫達の事だろうか。
静雄は肩を掴んでいた手を離して臨也の頬へと添える。
「…臨也」
熱っぽく名前を呼んで、少し赤くなった耳をぺろりと舐めた。
発情期なのはシズちゃんだろ?
猫vs静雄、勝者静雄。