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「cogito ergo sum」

青年は歌うように言った。人工知能cult、それが青年の名前である。
非常に知能が高く、人間の数百倍も賢明なロボット。人間への絶対服従という初期設定さえなければ、人類は疾うの昔に支配されていたのかもしれない。それほどに危険で有益な道具だった。

「おい、飯」

白い部屋の隅にいた“それ”に、片手にお盆を持った、四十半ばの男が呼びかける。
アルフは高性能アンドロイドを管理する研究員の一人だった。纏った白衣がひらりと舞う。

「アルフ、オレに飯はいらない」
「エネルギーは必要だろう。突然どうしたんだ。今までは普通に──」
「電気でだって賄える」
「まあ、そうだけど。何かあったのか、カル」

彼は窓辺を指さした。小鳥が一羽、死んでいた。

「寂しいのか。おまえ」
彼は何も応えなかった。
ただじっと小鳥を見つめて、唇を結んでいた。

「カル、あの小鳥はしっかり俺が埋葬してやる。だからさ、俺がせっかく作ったんだから、飯を食ってくれ」

食べるは生きる。アルフが幼少期から言われ続けてきたことだ。
だから他の研究員には内緒で、彼はアルフの為に毎日食事を作っていた。深い理由はない。ただ、情が移ったのかもしれない。

「なあ、カル」

寂しそうな、横顔に。アルフは困ったように微笑んだ。
人工知能cultは人間と同等の反応を示すが、それは設定されたプログラムであって、表面上のリアクションでしかない。最終目標は人間社会の中に溶け込ませること。
分かっていても、信じなかった。崇拝なんてしてやらなかった。

cogito ergo sum
我思う、故に我あり

アルフはお盆を床の上に置いて、部屋から出て行こうと扉をくぐってから、振り向いた。振り向いて、こう言った。

「俺が想っていてやるから、お前は、お前なんだ」

泣きそうに彼が顔をゆがめた。
どれが真実だっとしても、それはあまりにも悲しかった。



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