ありがとう太陽


偶然の重なりだった。
ひとつめ、いつも通りバイト先に向かおうとしたら自転車の後輪に空気がなくて、時間に余裕もあるし徒歩に変更した。
ふたつめ、クローズ作業がいつもより早く終わって、やることがないからと店長が予定より早く帰してくれた。
そして最後、研磨がゲームを休憩して、コンビニ目当てで外に出ていた。
すっごい偶然。

「レアエンカウントってやつだ」
「おれをモンスターと一緒にしないで」
「メタルスライム」
「名前ドラクエ知らないでしょ」
「知らねー」

なんて笑いながら研磨と並んでコンビニへ向かう。笑っているのは俺だけで研磨の表情は変わらない。でもつまらないと思っているなら研磨は返事どころか並んで歩いてくれない、はず。多分。確固たる自信はありません。

日付が変わろうとしている時間帯のコンビニは品薄で、客も少ないので店員もレジに立ちながらぼうっとしているようだ。
研磨は真っ直ぐジュースが陳列されているコーナーへ足を進めた。俺はその後をのんびりついて行く。ついでにカゴを持っていけば、2Lのお茶と清涼飲料水それぞれのペットボトルを抱えた研磨が小さく、ありがとうと言ってカゴの中にそれを入れた。

「珍しいなー」
「何が?」
「カルピス、あんま飲まねーじゃん」
「別にいいじゃん」
「今日は珍しいことが多いなー」
「ふぅん」

こちらを一瞥した研磨はお菓子コーナーへ進む。ふぅんて。興味ゼロかよ。俺よりお菓子かよ。
テキトーに選ばれた(ように見える)お菓子が入ったカゴに、腹いせというか悪戯というか、ちょっとした出来心で自分の好きなポテチを放り込んだ。カゴを持っているのだから買ってくれたっていいだろう、と恩着せがましい気持ちもあった。
研磨は既にアイスコーナーを覗いていた。少し目線が動くもすぐに一点をじっと見つめ、それに決めたらしく手に取り、こちらに向かってきた。どうやら買い物は終了らしい。




研磨が選んだアイスは2つに分かれるタイプのもので、無言で片方差し出されたので喜んで受け取った。夜とは言え、夏は暑いしジメジメしているのでアイスは大歓迎だ。

往路と同じように並んでアイスを食べながらお互いの家の方向へ歩いていると、分かれ道となった。

「じゃ、」
「え?」
「ん?」「うち、来るんじゃないの?」
「んん?」
「名前の好きなジュースも買ったよ」
「研磨が飲むんだと思ってた」
「おれは名前が自分で好きなお菓子買ってるからそういうつもりなんだと思ってた」

なにそれ、最初から研磨の中で俺は研磨の家に行くこと決定だったの?可愛すぎない?ジュースとお菓子で俺を釣ろうとしてるの?超可愛くない?俺の研磨です!

「行く」
勿論釣られた。即答だった。

「今ゲーム何してんの?」
「新作だけど、もうやめるよ」
「え、続きいいの?」
「…名前は、一緒にいても、ゲームしてていいの」

おれの思い上がりみたいじゃん、と僅かに唇を尖らせた。そんなことされたら、言われたら、よくないからいちゃいちゃしようの一択でしょう。だからその唇に今すぐキスさせてくれないかなぁ。恥ずかしがり屋だからだめだろうなぁ。

「…ゴムないけど」
「ある」
「えっ、冗談だったのに」
「なに、冗談なの?」
「いやいや、あるなら…ね、研磨、そーゆーの誘い受けって言うの、知ってた?」
「聞いてないから」

まさかの返答にニヤけていると研磨はすっかり拗ねてしまったようで、スピードを上げてすたすたと先を歩いてく。
俺は変わらずのんびり後をついて行く。すると立ち止まった研磨はちらりとこちらを振り返って不安そうに、

「はやく」

本当、夏休み万歳。





はいきゅの日 でした!



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