だからきみは


これの人 if



「あれ」
体育館へ一歩踏み入れるとすぐに違和感を覚えた。
ふらりと現れるOBである苗字に気付いた部員達からチワース!と挨拶が飛んでくる。体育会系らしいそれに、丁寧に返すよう辺りを見回しつつ違和感の原因を探った。

「溝口コーチ、国見は休みですか」
「ん?あー、またサボりか」
「また?」
「腹痛だか何だか言ってすぐサボるんだよアイツ」
「…ふゥん」

偶にとは言え、中学生の頃から国見を含めた複数の部員の様子を見てきた苗字は、おかしな話だと思った。彼のサボり癖は、彼自身の体力温存のためであり、面倒だからなどという所謂サボタージュとは訳が違うのだ。

「俺が探して来ますよ、溝口クン」
「おう、頼んだ」

踵を返した苗字の背中に「ったく、お前がそう呼ぶから及川まで…」と溝口がブチブチ零している。こういうところが『溝口くん』なのだと苗字は内心舌を出し、体育館を後にした。



コーチ曰くサボタージュ中の1年レギュラー国見英は案外すぐに見つかった。本当に腹が痛いようで、部室棟の裏で小さく蹲っている。ついでに本当の意味でサボタージュをしている部員を苗字は見つけてしまった。

「1年のクセに生意気なんだよ」
「入部早々レギュラー?ふざけんな」
「タッパあるからって何様なわけ」

テンプレだ、と思ってしまった。つい、浮かんでしまった。部員3人は国見の周りに立ち、未だ幼稚な文句を言っている。

「お前らは何様なわけ」

つい、口に出してしまった。すぐさま反応した部員達は、苗字を見るとギョっと目を剥き顔色を悪くした。目が合い、3人とも2年の部員だったと思い出した。

「苗字さんッ、チワス」

「堂々サボって後輩いじめ、ねぇ」
「!」
「うんうん、良い身分だな、レギュラー落ちした2年ってのは」
「ふざけ、んなッ」

3人の内最も苗字に近い部員が殴りかかってきた。俗に言うキレやすい若者である。
しかし速さもなければ軸も振れていて、上半身を動かすだけで躱せてしまい、部員は自らの勢いで倒れ込む。
先発に感化されたのか2人目、3人目と続いて殴りかかってきたがどれも同じようで地面と仲良しこよしだ。

「はいはい、解散。監督には俺が伝えとくから帰っていいよ」
テンプレはどこまでもテンプレである。部員3人はヒッ!と声にならない悲鳴を残して逃げ去った。苗字は短い溜息を吐いて蹲って動かない国見に歩み寄る。

「国見」
「………」
「英」

名前で呼べば、両腕で抱えていた足からもそりと頭が上がり、ようやく表情が伺えた。いつも通り、周りから「何を考えているか分からない」と評されるものだった。

「大丈夫、です」
「英」
「……」
「大丈夫じゃないときは大丈夫って言わねぇの」
「っ、名前さん、」

視線に合わせてしゃがみこんだ名前が微笑みながら英の頭を撫でると、黒々とした英の瞳がゆらりと潤んだ。頭を撫でながら、腕を伸ばして縋りついてくる英を受け止める。

「名前さん、」
「よしよし、どっか痛いとこねぇか」
「、大丈夫」
「………」
「大丈夫だってば、ぅ、わ!」

大丈夫じゃないときは、とさっき伝えたばかりだというのに。名前は尚も隠そうとする英の練習着をがばりと捲り上げた。

「…あいつら、さっき殴り返しとくんだった」

露わになった腹部には青痣や出来たばかりの赤い腫れがあった。名前が英の手を取るも、英は動こうとしなかった。

「保健室行こう」
「や、やだ、」
「ダメだ。治療すんぞ」
「…学校に知られたくない」

英の瞳は潤んだままであるが真剣で、本気の言葉だと分かった。名前は諦めて英の手を離し、背を向ける。

「乗れ」
「やだってば、」
「違ぇよ、うちで手当する。簡単なもんしかないけど、それなら良いだろ」

英の返事はなかったが、背に体重が掛かったためそれを了承として立ち上がって歩を進めた。

「早退って伝えるから体育館寄るぞ」
「ん…、ねぇ」
「なに」
「名前さんの背中、広いね」

あんまり背変わらないのに。

「お前、さっきの気にしてるだろ」
「……」
「英は身長でレギュラーになったんじゃない。そんなの英が1番分かってる。俺も知ってるし監督だって他のレギュラーだって知ってる」
「…うん、」
「それでも気にするなら俺があいつらに教えてくる。英はこんなに凄いんだって」
「っねぇ、名前さん、」

ちゅーして。

「…怪我してるから家着いたらな」
「やだ、いますぐ」
「車乗ったら」
「やだ」
「たくさんしてやるから」
「…わかった」

体育館なんて寄らずに駐車場に向かってくれればいいのに、と英は緩んでしまいそうな頬を膨らませて誤魔化した。








あさりさまより「怪我する国見、二年から嫌がらせされる国見を助ける先輩主」でした。
リクエストありがとうございました!



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