指揮者は語る


これの続き



名前さんに会うのは久々だ。
と言っても先々週の金曜からDVD鑑賞とか何とか銘打って2泊3日名前さんの家で一緒にいたけど、先週は新学期早々に実施されたテストの結果が返却されたりとか新入生の仮入部期間とかが一気に押し寄せてきて、名前さんも入学式やガイダンスで休みが潰れたりしちゃって全然会えなかったからもう早く会いたいの!

「なんで入学式を休日にやるの!」って電話越しに怒ったら「そりゃ親御サンとかが来やすいようにだろ」なんて返された。

「今日は妙にソワソワしてるな」
「そーお?」
「時計気にしまくり」
「あは、バレてた」

だってさ、今日は久しぶりに名前サンが来るんだよ?
そう理由を話せば岩ちゃんは掴んで振りかぶっていたボールを下げて納得したような表情になった。岩ちゃん優しいネ。

「だからここにカバン持ってきてんのか」
「そ。因みに先輩たちには歯医者に行くので5時に帰りますって言ってある」
「診察時間終わるだろ」

そっか。まーいいや!小声で「岩ちゃんだけのヒミツね」と付け加えておまけにウィンクしたらまた険しい表情に戻った。こわ!

現主将率いる3年たちに怒られる前にお喋りを終えて練習に戻るついでに時計を盗み見る。

あと15分。早く会いたいなぁ、なんて女の子のようなことを考えながらサーブを打とうとボールを宙へ放った時、体育館の出入り口の扉が開いた。

「及川いるー?」
「! 名前さ、あたッ」

名前さんの登場により固まった俺の頭に自分が投げたボールが降ってきた。言うほどは痛くない。
正面にいた岩ちゃんの方を見ると行ってこいのサインなのか首を動かしただけで他の部員に混ざっていった。俺は小走りで出入り口に立つ名前さんの元へ向かう。今日も格好良いつらい。

「時間、まだなんじゃ」
「え、もう5時過ぎてるよ」

ほら、と見せてもらったスマホに表示されるデジタル時計は5時7分を示している。スマホいつ買ったの?体育館の時計がズレてんの?焦って自分のカバンからケータイを取り出して確認すると5時7分。うわ、遅刻じゃんか。

「すいません!」
「いいよ、ここのが遅れてたんじゃ仕方ないでしょ」

にっこり笑って許してくれる名前さんは本当に優しいし眩しい。この笑顔は多分本心からもの、だと思う。
そうこうしてる間に3年の先輩数人が名前さんの元にやってくる。やべ。

「名前先輩こんちわッス!」
「どうしたんスか?」
「久し振り。ちょっと及川に用事があって」
「及川これから歯医者って言ってましたよ」
「!」

嘘がバレる!怒られるのは別にいいけどまたこうやって名前さんと会うために早く帰るのが出来なくなっちゃったらどうしよう。

「うん、俺が歯医者連れてくの」

ズボンのポケットから取り出した車のキーに先輩たちが声を上げる。
受験を終えて早々に自動車学校に通い始めた名前さんの車に初めて乗せてもらったのは俺だ。助手席は譲らないよ。

「ってことで行こう。間に合わないよ」
「はい!」

お疲れっした、お先失礼しあす。テキトーに会釈してカバンを引っ掴んで、既に体育館を出た名前さんを追う。歩く姿も、好き。

「話合わせてくれてありがとうございます」
「そんな気がしてたし」

例の車に乗り込んでそんな会話をする。普段よりは汗かいてないハズだけど狭い空間だと臭いかな?
でも以前「着替えてる暇があったら早く来い」って言われちゃったからなァ。ちょっと低い声でドキッとしたことは忘れないけどやっぱり気になるので襟を指で摘んで確認してみた。ら、隣にいる名前さんが身を乗り出して俺の首元に鼻を近付けてきた。

「徹の汗の匂い好きだから気にすんな」
「ッ、名前さん、」
「はい出発ー」
「えー!!」

離れてシートベルトを着けてハンドル握って、と一連の動作が早いこと早いこと。俺の動悸といい勝負だ。





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