▼ 実験体‐03
「こういう物を使うのはあまり好きではないんですけどね…。時間短縮の為やむを得ません」
ため息と共に男はローターとその側に置いてあった医療用のテープを手に取る。
「やっ…やめて…! お願い…っ!」
「恨むのならせっかちな顧客を恨んで下さいね」
声を震わせて哀願する私にニッコリと笑いかける男。
その笑顔は、「あまり好きじゃない」だの言ってたくせに明らかにこの状況を楽しんでいるようだった。
「…いやぁっ!!」
当然私の願いは受け入れてもらえず、極限まで過敏になったクリに冷たく固いローターが押し当てられた。
その上から手早く何枚ものテープが貼られ、最悪のポジションにしっかりと固定される。
「やめ…て…っ」
私は最後の望みをかけて男を見上げた。
「お願…」
「最初から振動最大でいきますので」
「へっ…、あっ! いやっ! いや…っ、ッあああああぁああーーー!!」
雷に打たれたような衝撃が爪先から脳天までを貫く。
男を見上げていた私は更に喉を仰け反らせて天井を仰ぎ、自分の鼓膜までやぶれてしまいそうな悲鳴を上げた。
「やあああっ!! あっあっあぁああッ!!」
無常にも入れられたスイッチに忠実に従い、ローターは獰猛な唸りを響かせ押し潰したクリを揺さぶり立てる。
自愛の欠片もない振動が始まって数秒も経たない内に、激しい快感がせり上がって私は二度目の絶頂へと打ち上げられた。
あまりにも強烈な法悦に脳内がチカチカと点滅する。
…けれど地獄は始まったばかり。
ローターは容赦なく感極まったクリを震わせ、体中の性感帯を燃え盛らせる。
「いやあぁあーーっ!! あああっ! あはッあっあぅああぁ!!」
イク寸前の最高潮の痺れが延々と続いているかのような凶悪すぎる刺激に私は拘束具に抗える限り体を仰け反らせて悶え泣いた。
短時間の内に何度も何度も強制的にイかされ、全身がジンジンと痺れだす。
涙は枯れ果て、叫ぶ気力もだんだんとなくなってきた。
けれどローターは威力を微塵も衰えさせず、充血したクリを弄り尽くす。
「まだ壊れないで下さいね」
「ひあっ! あっ、あああぁっ…!」
頭が真っ白になって意識を手放しかけたそのとき、スルリと耳に届く男の落ち着いた声が私の脳内をクリアに引き戻した。
男は脂汗の滲んだ胸に指先を滑らせながら私を真っ直ぐに見据えて微笑む。
「初対面の男に今自分がどれだけ醜猥な姿を曝け出しているか、わかりますか?」
「やっ、や…っあぁ! ふあッああぁあ!!」
男の言葉に忘れ去っていた羞恥心を呼び覚まされ、消える寸前の意識が奮い立つ。
…いっそのこと、何もかもわからなくなるくらい快楽に堕ちてしまった方が楽だった。
なのに男は私に無理やり理性を掴ませ、その逃避する手段さえも奪った。
「ああああっ! ぃやあぁあああっ!」
狂うこともできず、極限の快楽に捕らわれたまま、何時間もの時が流れていった。
…いや、もしかしたら数十分も経ってないのかもしれない。
もう時間の感覚なんてわからない。
とにかく私には、絶望を覚えるほど長い永い時が経っているように感じていた。
乱れた呼吸を落ち着かせることができず、胸がどんどん苦しくなっていく。
頭もボーッとして、手足の先が冷たく痺れる。
…私、このまま死んじゃうのかな…。
「はい。お疲れ様でした」
──ヴヴヴ…ヴ…
「あぁぁっ! …アッ、は…ぁ…っ?」
頭の片隅で死の存在をチラつかせたそのとき、部屋中を震わせていたローターのけたたましい振動音が止んだかと思うと、体中を駆け巡っていた快楽の電流が嘘みたいにピタリと治まった。
「は…っ、ぁ…あっ…」
唐突すぎる終わりに思考も体も追いつかず、私は頭が空っぽの状態のまま振動の余韻に震えながら視線を男に送る。
「必要量を採取するまで10分もかかりませんでしたよ。ご協力ありがとう御座います」
そう言う男の手には小ぶりのビーカーが握られていた。
男が動くたびにいっぱいに注がれている濁った透明の液体がコプリと揺れる。
…まさか…それって私の…っ
身じろぐと同時にお尻に感じた冷たくヌルリとした水の感触がよぎった考えを確信に変えた。
…あのビーカーに入っているのは私の愛液だ。
羞恥がドッと込み上がり、現実から目を背けるように私は男から顔をそらした。
「良かった。まだ理性はしっかり残っているようですね」
「……っ」
男の静かな笑い声が劣情を更に煽る。
あんなものビーカーに採ってどうするつもりなんだろう…。
“試作品をテスト”という男の発言を思い出し、再び恐怖心が浮上してくる。
「さて…」
男はビーカーをテーブルに置くと、そう呟いて私の片足を掴んだ。
「ひっ…!」
私はとっさに目を閉じる。
──カチャ、カチャッ シュルル…ッ
足に走るのは圧迫が解かれていく解放感。
一体何をされているのかと恐る恐る目を開くと映り込んだのは、拘束ベルトから外された足ともう片方の足の拘束も解いていく男の姿だった。
「えっ…!?」
思いもよらない光景に素っ頓狂な声が漏れる。
足の拘束具を全て取り去ると、男は目を丸くしている私を見つめながらゆったりと語りかけてきた。
「ずっと同じ体勢で疲れたでしょう。試作品を運んでくるのでそれまでゆっくり休んでいて下さい。腕の方も後ほど外しますので」
そして男は呆気にとられている私を置き去りに部屋を出て行った。
「……」
静まり返った部屋を改めて見回す。
…もしかしたら…逃げ出すチャンスが現れるかもしれない。
まさか拘束を解くなんて…。
疲れ果ててまともに動けないだろうとでも思ったのか。
淫欲から覚めた身体は着実に回復していく。
まだアソコがジンジンするけど…これならもう全速力で走れる。
…視線を止めた先には媚薬入りの注射器。
スキを突いて男にアレを刺してグダグダになったところを……。
私は希望を見出し、頭の中で何度もシミュレーションを繰り返した。
──ガチャッ
6度目の華麗な脱出劇を終えた頃、男がガラガラと荷台を押しながら姿を現した。
何事かと荷台を見ると、そこには大きな植木鉢が一つ乗っていた。
何の変哲も無いごく普通の植木鉢。
中には普通の土。植物は生えていない。
…これが試作品?
部屋の真ん中までそれを持ってくると、男はビーカーを手に取った。
──バシャッ
「……っ!?」
ビーカーが逆さまに反され、中に入っていた私の愛液が勢いよく植木鉢に降り注ぐ。
「なっ…」
何っ? 何やってんのこの人!?
異常な行動を起こしたにもかかわらず男の笑顔は相も変わらず涼しげだった。
「面白いものが見れますよ」
そう言って男はドン引きしている私の腕に手を伸ばしてきた。
──ガチャ、ジャラッ…
手首に巻きついていた手錠を外され、ついに私は自由の身になった。
テーブルに戻り、書類にペンを走らせていく男。
その姿からは警戒心をまるで感じない。
…いける…!
私は静かに体を起こし、勢い良く椅子から飛び降りようとギュッと椅子に両手をついた。
「──ひっ!?」
身を乗り出そうとしたその瞬間、何かが私の手首を掴んだ。
とっさに視線を下ろすと、手首に親指くらいの太さのツタが絡み付いていた。
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