短編[苦] | ナノ

▼ 実験体‐01

電気を止められた。

財布も通帳も合わせて残金は777円。

スロットでこの数字見れたら最高なのに…って、そんな冗談言ってる場合じゃない。

…しょうがない、面倒くさいけど援交でもやるかぁ…。


私は気だるく布団に潜り込み、枕元に置いてあった携帯を手に取ってWebを開いた。

…一回ヤッて5万とかくれる奴いないかなー。オッサンはやだな…なるべく若い人がいい……

──ん?

女性限定医療モニター…?


裏情報系の掲示板を流し読みしてると、ふとその文字が目に飛び込んできた。

説明を見てみると、医療モニターってのは製薬会社が新しく作った薬の実験台になって報酬をもらうっていうものらしい。

気になって貼られてたリンクに飛ぶと、いかにも製薬会社って感じの堅苦しいページに切り替わった。

文章多いし難しいしでよくわかんないけど…とにかくちゃんとした所っぽい。

取り扱う薬は美容関係のもので危険性はゼロ。報酬は……

3泊4日 12万円!?

宿泊する施設は毎日3食無料で入浴や外出も自由って…最高じゃんこれ!!

私は迷わず即行で申し込みボタンを押してメールを送った。


返事は1時間もしない内に返ってきて、ポンポンと短いやりとりを交わし、なんと嬉しいことに明日から早速施設に行ってモニターになることになった。


…4日で12万かぁ…。

買いたかった服全部買っちゃおうかなー。
化粧品も新しいの欲しいなぁ…あ、あとゲームも欲しいし携帯も変えたいし……あーっどうしよーっ!

私はこれから入る大金の使い道をあれこれ考えながら1日中 家の中でダラダラ過ごして、電気つかないし明日に備えてってことで早く眠りについた。


・ ・ ・ ・ ・


窓から差し込む外の光に刺激されて重い瞼を開く。


…まだ眠い…。二度寝しよっかな……ていうか今何時?

手探りで携帯を掴んで画面を見てみると、デジタルの数字は10:50と表示されていた。

…10時…50分…?

あれ…確か医療モニターの待ち合わせって……

11時だっっ!!!


私は化粧もしないで服だけ着替えて家を飛び出した。

徒歩で約10分はかかる待ち合わせ場所まで全速力で駆け抜ける。

ニート生活で衰えきった体が1分もたたない内に悲鳴を上げ始めた。

脚や内臓がめちゃくちゃ痛いし酸欠で気持ち悪い。

でも絶対にこのおいしい話を逃すまいと、私は何がなんでも走りつづけた。


「…はあっはあっゲホッ…!」

ようやく目的地に到着して携帯を確かめると、11時を7分も過ぎていた。

…辺りを必死に見回しても製薬会社っぽい車は…見当たらない。

「うそぉ…っ」

疲労とショックが重なり、私はその場に崩れ落ちた。

…せっかくの大金ゲットのチャンスが…

ああもうっ、早く寝たのになんで寝坊すんのよ!私のバカッ!


「…鳴海さんですか?」

「──へっ!?」

自堕落な自分を罵っていた最中、突然男の声が私の名前を呼んだ。

とっさに顔を上げると、目の前に20代後半くらいの眼鏡の男が立ってニコニコと私を見下ろしていた。

「はい…そうですけど…」

「製薬会社の者です。試験施設へご案内しますので、どうぞこちらの車にお乗り下さい」

「え…っ! は、はいっ!」

“こちら”といわれた車はシルバーの見るからに高級そうな車だった。

もっと、白くて会社名がでかでか書かれてる車を想像してたのに…。

男の人も、ハゲたオッサンかと思いきや知的で色気のある大人な雰囲気全開でカッコイイ。

自然に助手席へと誘導されて、私は化粧してくるべきだったと激しく後悔した。

──バタンッ

男が運転席に乗り込み、車がなめらかに発進する。

車内は火照った体をみるみるうちに癒やしてくれるような快適な涼しさだ。

乱れた呼吸と一緒にフゥとため息を漏らす。

「ここまでずっと走って来たんですか?」

「はい…寝坊しちゃって」

「そうですか…。もう少し遅い時間にすれば良かったですねぇ」

「そんなっ! こんな時間まで寝てる私が悪いんですよっ!」

「いえ、こちらも急がせてしまって申し訳ないです。だいぶお疲れでしょう。そこにあるお茶飲んで下さい」

「あっ。ありがとうございます!」

喉がカラカラだったからこの気遣いは本当に嬉しい。

私はすぐさまドリンクホルダーのペットボトルを取って、一気にお茶を喉に流し込んだ。

「少しは落ち着きましたか?」

「はいっ! かなり生き返りました!」

「ふふ、それは良かった。…では、これから質問にいくつか答えて頂いて宜しいですか?」

「はいっ、どうぞ」

「まず…何かアレルギーはありますか?」

「いえ、何もないです」

そんな感じで簡単な問診が始まり、私は次々と健康アピールをしていった。

質問を出す男の声は柔らかくて落ち着いてて、凄く心地いい。

そのせいなのか、だんだんと瞼が重く意識がまどろみ始めた。

「次の質問ですが…、鳴海さん? どうしましたか?」

「ごめんなさ…なんか…凄く眠くて…」

気を奮い立たせようとしても全く言うことがきかない。

異常なくらい思考が溶かされていく。

…なんで…? あんないっぱい寝たのに…。

「新しい睡眠薬は効き目良好のようですね」

「…え…?」

男の言葉を理解できないまま、私はプツリと切れるように意識を手放した。










……な に……ここ…? 真っ白…


──ガチャッ

「…っ!?」

なっなんでっ? 体動かな…って裸!?

「いや…っ何っ!?なんなの…っ!?」

私は力いっぱい全身を身じろがせた。

でもガチャガチャ金属音が響くばかりで体はビクともしない。

変な一人掛けの椅子に座らされ、セックスで下になってるときみたいに股を大きくさらけ出してる体勢で両脚をガッチリ固定されて、両手は頭の上でひとまとめに背もたれに拘束されている。

腰にはベルトが巻かれていて、唯一動かせるのは頭だけ。

辺りは真っ白。

天井も床も壁も汚れ一つない白で、照明が怖いくらいギラギラと私の体を照らしている。

そばにあるテーブルの上に何かがまとまって置かれていて、白い布がかかっている。

それよりも先に、その隣りにある銀色のトレーの上の注射器が目に飛び込み、私は引きつった悲鳴を漏らした。


状況が何もわからなくて涙と震えが止まらない。

あまりの恐怖に頭がおかしくなりそうになったそのとき、視界の隅にあった白いドアがゆっくりと開いた。

「おはよう御座います、鳴海さん」

「…っあ…! あっ」

現れたのは私を迎えに来た製薬会社の男だった。

“ここはどこ!?”
“なんでこんなことになってんの!?”
“やだっ、こっち来ないで!こんな格好見られたくない!”

叫びたい言葉が頭の中でグチャグチャになってまともに声を発することすらできない。

そんな私を無機質な眼鏡のフレーム越しに見据えながら男は私のもとへ悠々と歩み寄ってくる。

本能的な恐怖心が駆け巡り、私は全身を固く強ばらせた。

「ひっ…!」

真横にまで来た男が不意に手を伸ばしてきて、とっさに目を閉じ肩をすくめる。

…けれど、何をされるのかと身構えていた私に降ってきたのは、とても柔らかくて優しい感触だった。

「そんなに怯えないで下さい」

「…へ…」

頭を包む大きな手。

あやすように髪をとかされ、ほんの少しだけ恐怖の和らいだ私はそっと顔を上げて男を見上げた。

「緊張すると、薬の廻りが悪くなってしまいますから」

「……っ!?」

ニコリと微笑む男を見開いた瞳に移したまま私は凍り付く。

…こんな状況で、頭を撫でられたくらいでなにを安堵していたんだろう。

間抜けな私は男の悪魔のようなその囁きによって、更に深い恐怖の奈落へ突き落とされた。

「…っく、薬…って何…!? やだっいやあーーっ!」

「ああ、今の一言は余計でしたね」

「やああぁっ!なんなのよここっ!離してっ助けてぇぇぇーーーっ!!」

枷をガチャガチャと忙しく響かせて必死に暴れる私を尻目に男はのん気に笑いながらテーブルへと足を向けた。

…そして真っ先に手に取ったのは、さっきから嫌なくらい目についていた小さな注射器。

これからされることを考えなくても察知した私は、丸出しになってる胸が豪快に揺れようがなりふり構わず全身をよじらせ拘束具に抗った。

「大丈夫ですよ。この薬は実用段階までクリアしているので危険性は全くありません」

「やだっやだぁあっ!やめてっ来ないでぇ!いやああぁぁあっ!!!」

危険性がないなんて言われたって、なんの薬かもわからないものを大人しく受け入れられるわけがない。

鋭い注射針を向けられ、私は一層激しく体を揺さぶり抵抗を続けた。

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