▼ 操られ人形3‐05
「ねぇっ…、なんで、笹原くんは…私を選んだの?」
「……」
「やぁッ…!? あっ、ふあッあぁああ!」
言いたくないとでも言うように笹原の指が膣口を無理やりこじ開けて奥まで一気に沈み込み中を掻き乱し始める。
快楽の染み付いた身体はその荒々しい刺激になす術もなく悶え、美園の脳内を甘く痺れさせる。
しかし意識が真っ白に溶かされてしまうのをなんとか堪え美園は憤りを訴えるように手に力を込めて笹原の背中に爪を立てた。
「答えて…っ、答えてよ…!!」
「……っ、…美園さんが…、クラスの中で一番人気があったから…。そんな人を自分の好きなように操って、優越感を味わいたいって…。最初はそんなクズな考えだった。…でも、今は…っ」
今は違う。
人形を使って美園さんを手に入れてから毎日美園さんのことを意識するようになって、いろんな一面を垣間見て、
いつもニコニコ笑ってるくせに本当は人一倍気が弱くて寂しがりで、真面目なふりして実はいろいろだらしなくて性欲にもだらしなくて淫乱で。
本当の美園さんの姿をたくさん知って、その全部が面白くて可愛くて。
「…今はっ…、なに…っ?」
いつの間にか本気で美園さんのことを好きになっていた。
だから今は堪らなく苦しい。
美園さんが他の男と話してるだけでどうしようもなく嫉妬して、不安になって、卑怯な手段を使ってでしか近づくことのできない惨めな自分が憎くて消えたくなる。
「なに…? ちゃんと、言ってよ…っ!」
言えるわけない。
もう終わりにしよう。これ以上俺を勘違いさせないでくれ。
美園さんが俺なんかに気があるわけない。万が一あったとしてもきっとすぐに愛想を尽かして離れていくんだ。
「なんで言ってくれないのっ…? どうして逃げるのっ? バカ!意気地なしっ!」
そうだよ。俺は馬鹿で、弱くてゴミみたいな人間で、どんなに努力したって美園さんにつり合うような男にはなれないんだよ。
「弱虫!卑怯者…っ!バカッ、…自己中っ!!」
泣き喚きながら美園は渾身の力を込めて笹原の背中に爪を突き立てる。
脳にまで響く激しい痛みに歯を食いしばり、笹原も一層がむしゃらに膣内を掻き回した。
グジュッ、ジュプッ!と卑猥な音を上げて幾度も愛液が噴き上がる。
それは美園の座っている椅子をグシャグシャに濡らし床にまで水溜りを作っていた。
「なんでっ…! やだっ、やだぁっ…!」
…嫌? 俺だって嫌だよ。こんな惨めな自分が。
美園さんが他の男のもとへ行ってしまうことだって…、本当は死にたくなるぐらい嫌だ…! 美園さんが欲しい。もっといろんなことが知りたい。もっといろんな姿が見たい…!
…でもダメだ。もう諦めるんだ。
これ以上俺に近づくな。関わるな。今ならまだすぐ断ち切れるんだ。傷つかないで済むんだ…!
「やだっ…! 終わりたくない!私の気持ちを無視して勝手に終わらせないでよっ…!!」
「……っ!」
──ガタンッ!!
突如、体がフワリと宙に浮いたかと思うと驚く間もなく今度は全身に鈍い痛みが走った。
突然の出来事に悲鳴を上げることもできなかった美園は痛みに顔をしかめながら、とっさに閉じてしまった目を開く。
視界一杯に広がるのは笹原の体。その先には薄汚れた蛍光灯と天井。
笹原に抱き留められそのまま床に押し倒されたらしい。
ようやく状況を把握した美園は体を起こした笹原の顔を真っ直ぐに見詰めた。
笹原も重たい前髪の奥から美園を見詰める。
互いに息を切らして肩や胸を上下に大きく揺らしている。
そんな忙しない2人の呼吸が静まり返った教室内に細々と響いた。
外から部活動に励む生徒たちの活気な声が流れてくる。
いつの間にか日が暮れかけ、教室に注ぐ日差しは柔らかなオレンジ色になっていた。
ぼんやりと霞んで痺れる脳内に静かに時を打つ時計の音がカチコチと小気味よく刻まれていく。
美園は何も口にせず黙って目の前にいる男の顔を見詰め続けた。
瞳いっぱいに涙が溜まっているせいで相手の表情は全く読み取れない。
けれど彼が泣いているということはわかった。
頬や首元にポツポツと落ちる雫には確かな彼の熱が込められていた。
「…っ、ぅ…っ」
小さな嗚咽を漏らしながら笹原は美園の手を握る。
そこには不安や迷いを滲ませた震えはもうなかった。
美園はその手に指を絡め、更に深く強く繋ぎとめる。
すると降り落ちる雫が一層熱く大きくなって美園の体を叩いた。
「……美園さんを…っ、誰にも…渡したくない…っ」
無理やり絞り出したような小さく掠れた声。
その言葉を聞いた瞬間、美園の瞳から一気に涙が溢れ出した。
「私だって…、笹原くんじゃなきゃ嫌だよっ…!」
ぐしゃぐしゃに泣きじゃくりながら美園はもう片方の手を笹原の顔に伸ばす。
笹原も吸い寄せられるようにして顔を寄せ、そして2人は深く唇を重ね合わせた。
たどたどしい口付けは次第に熱を上げ、乱れる吐息をも閉じ込めて互いを求め合っていく。
「…っ、もう…、勝手に逃げようとしないで…っ」
「…はい」
「傷つくのが嫌だから逃げようなんて思わないで。私の身体をこんな風にしたのは笹原くんなんだからっ…ちゃんと責任とってよ。もっと、私のせいでいっぱい傷つけばいいんだ、笹原くんなんかっ…!」
もっとヒリつくくらい深く触れ合って。
私のために傷ついて。
歪んで歪んで、この関係から抜け出せなくなってしまえばいい。
涙を流しながら精一杯強気に微笑んで美園は再び笹原に甘く口付けた。
美園の手によって自分も操り人形の糸を括り付けられたような淫靡な繋縛感を感じて笹原の胸の内がゾクゾクと奮い立つ。
言葉にすることが出来ない代わりに笹原は美園の身体を力強く抱いて繋いだ手を握りしめた。
深く深く、もう二度と手放すことがないように。
・ ・ ・ ・ ・
──プルルル、プルルル…ッ、
「もしもし。ごめんね遅い時間に。もう寝てた?」
『…ううん。起きてた』
「そう、じゃあ電話が来るの待ってたんだ?」
『……っ』
「学校では中途半端な感じで終わっちゃったからね。まだイき足りないんだろ?」
『…ふふ…っ』
「なんだよ?」
『だって電話だと全然雰囲気が違うんだもん』
「うっ、うるさいな」
『ひゃっ!?』
机の上に置いた人形の背中を撫でるとたちまち美園の声が甘く上擦る。
いつもと変わらない愛くるしい反応に笹原は思わず口元をほころばせた。
「…先に言っておくけど、…多分今日は加減があまりできないと思うから」
『へっ…?』
小さく息を呑む音が聞こえ、そして「…はい」と艶めかしい声が鼓膜を震わせる。
「抑えがきかなくなったらごめん」
『ううん。…私は大丈夫、です…っ』
他では味わうことのできない甘美な昂揚感が笹原の身体を満たしていく。
…きっと、電話の向こうの美園も同じ昂ぶりを感じているはず。
確かな繋がりを噛み締めて笹原は人形を手に取った。
・・・2人の不思議な関係はこれからも続いていく。
終。
prev / next