▼ 操られ人形3‐04
と、とにかく、謝らないと…!
そう思うと同時に笹原はホコリの溜まった床に膝をついた。
両手も伏せ、そして額を深々と床に擦り付けて土下座という謝罪の姿勢を美園に向ける。
「ごめんなさいっ」
「へっ…!?」
「本当にごめんなさい…! 今まで、美園さんに勝手なことをしてっ…」
「ま、待って! どうして謝るのっ? そんなことしないで…!」
「え…っ?」
美園の困惑した声を聞き笹原はとっさに顔を上げる。
「じゃあ、なんでこんな所まで連れてきたんですか? どうして欲しいんですかっ…?」
「どうって…っ、だって、笹原くんがっ…!」
「…僕がなんですか?」
「なっ、…なんにも、してくれないから…っ」
そこまで言うとたちまち顔を真っ赤に染めて美園は再び泣きそうな顔を見せて俯いた。
「ずっと…、待ってたのに…っ、今日も昨日も…」
もじもじと制服の裾を握りながらなんとか言葉を続けたが、その声も段々と小さくなってついには途切れてしまった。
そんな気恥ずかしさを露わにした様子の美園を見上げながら笹原はポカンと呆気にとられて正座したまま体を固まらせる。
「え、で、でも、あの男がいるから、別に僕が何かしなくたって…」
「あの男? って誰」
「昨日、映画館で…2人でどこかに行くって…」
「あの人とは何もないよ! ロビーまで行ってすぐ断って別れたのに、見てなかったの?」
「じゃっ…、邪魔しちゃ悪いと思って…帰りました」
「…私があの人について行ったって勝手に決めつけたの?」
「だって、自分なんかよりあっちの方がずっといい男だから…」
「…それで、私に新しい男ができたから自分は潔く身を引こうと思ったの?」
「そうですよ。美園さんにとっては僕の存在なんて迷惑なだけでしょう?」
…ああ この人はこんなに弱くて
私たちの関係はこんなに脆いものだったんだ。
頭の中が黒く冷え渡っていくのを感じながら美園は笹原を見下ろして立ち尽くす。
私は完全に掌握されているんだと思ってた。
電話のときの笹原くんはいつも不敵で、私自身ですら知らないズルいところや弱いところ全部全部見透かしてるようで、
…だから私は逆らえなくて、何も考えられなくなって、真っ白になって…。
そうして本当の自分を全て解放させられるのが…すごく、気持ちよかった。
彼の手の中で彼の思うままに操られて、私の何もかもを彼に委ねる。この絶対的な関係に私は捕らわれてしまっているんだと思っていたのに。
笹原くんがこんなに弱かったなんて知らなかった。
…いつも電話越しで一方的に翻弄されて彼の心に触れる余裕なんてもたせてくれなかったから。
ずっと知りたかった。
前に一度だけ直接触られたとき、どうしてあんなにたどたどしく指が震えていたのか。
あの震えに彼の本心が秘められている気がして、私ももっと彼の気持ちを知ってこの関係を深めたいと思ったのにあれっきりもう直接触ってくれることはなくなって、余計に心の距離が遠くなって、もどかしくて、でも関係を壊したくないから迂闊に近づけなくて…。
でもやっとわかった。
私と同じくらい笹原くんもズルくて、どうしようもなく弱い人だったんだ。
やっと知ることができた。やっと彼のことを近くに感じられることができた。
もう少し、手を伸ばせば彼の心に触れることができるかもしれない。もっと深く繋がることができるかもしれない。
…なのに、なんでまたそうやって頑なに壁を作って、勝手に逃げようとするの?
いつもいつも私だけ振り回されてばっかり。
真っ黒に染まった美園の脳内がジリジリと燻り始める。
毎日電話が鳴るのを期待して、教室で感じる視線に身体が熱くなって…、
こんなに私は侵されているのに、笹原くんはそんな簡単にこの関係を切り捨てられるの? 私の存在はその程度だったの?
燻っていた炎は瞬く間に真っ赤に燃え広がり、焼け付く衝動に押され美園は笹原のもとへと一歩踏み出した。
「……ねぇ」
「はい」
「蹴ってもいい?」
「えっ? ──ッうあ゛!!?」
笹原の答えを待たずに美園は足を振り上げて力いっぱい笹原の肩を蹴りつけた。
激しい衝撃を受け笹原は呻き声を漏らしながら後方へと転がっていく。
それでも怒りの治まらない美園は笹原を追いかけ、丸まった背中に更にもう一発鋭い蹴りを入れた。
「い゛ッ…!!」
「なんでっ、なんでそんなに自分勝手なの!? 私の気持ちも知らないでっ…!」
「ごっ…ごめんなさい…っ!」
「そんなこと聞きたくない!」
呻き混じりにこぼれた謝罪の言葉にますます腹の底を煮やし、美園はそばに乱雑していた机の上の椅子を掴み取ってガタンッと床に置いた。
その椅子に座って笹原を睨みながら低く冷たく言い放つ。
「イかせて」
「…っ、え…?」
「笹原くんのせいで昨日からずっと体がおかしくなってるの。だからイかせてよ」
「で、でも、…自分なんかがっ…」
まだそんなこと言うの? そんな苛立ちを募らせ美園は「早くして」と怒鳴った。
笹原は言われるがまま、あちこち痛む体をひきずって笹原の足元にひざまずく。
「っ…!」
太ももに恐る恐る触れる指先。
その冷たい感触にたちまち全身が打ち震えて美園は息を詰まらせた。
指は遠慮がちにスカートを捲り、美園の脚を開かせその奥に伸びていく。
…ああ、やっぱりこの感覚だ。
体の中枢を疼かせる期待感。真っ白に蕩けていく理性。
ずっと待ちわびていた熱情を全身で感じ、美園の瞳に涙が滲む。
「あッ! ふぁっ…!」
グチュッ…とぬめりの音を立てて指が下着の上から裂け目を撫で上げる。
そこはすでに下着の色が濃くなるほど愛液を染み渡らせていた。
熱く湿った媚肉を下着ごとえぐり奥へ奥へと指は浸蝕していく。
クチュ、ジュプ…ッと後ろめたい音が立つたびに甘い快感が弾けて美園は悩ましげに細い腰を悶えさせた。
…もう私の体は笹原くんじゃなきゃ駄目なんだ…。
昨夜、美園は仕方なく自身の手で身体を慰めた。けれどどんなに敏感な所を刺激してもこれほどの昂揚感を得ることはできなかった。
笹原に身を委ねることでやっと本当の自分を曝け出すことができる。
そう改めて実感し、その圧倒的な快楽に美園は瞬く間に溺れて限界まで追い詰められていく。
「ひっ…ぁ、あぁ…っ!ううぅうぅッ!!」
張り詰めていた緊張の糸が切れ、美園の身体がビクンッと大きく跳ね上がる。
ほんの少ししか触っていないのに絶頂を迎えた美園に驚き笹原は思わず顔を上げた。
「イッたの…?」
しかし美園は小刻みに肩を震わせながらもフルフルと首を横に振る。
「まだ…っ、全然足りない…!」
切なげな泣き声が笹原の胸を打つ。
想像もつかない展開の連続に思考が完全に停止して笹原はなにも考えることができなくなっていた。
だが美園の望みに応えたいという一心に突き動かされ、夢中で彼女の下着に手をかける。
それをおもむろに引きおろし片足に残して、露わになった秘部に指先を這わせた。
「ひあっ! あぁっ…!」
赤く色づいた花弁をそっと開いて淫らな粘膜を外気に晒す。
蜜を潤す淫泉は手招きするようにヒクヒクと妖しく蠢いていた。
笹原は震える太ももを掴んで顔を寄せ、その痴態に舌を伸ばしていく。
「ふあぁあっ!」
滴る愛液をすくいながら下から上へ舌先を這わせて膨張した陰核を包み込む。
とたんに美園の身体が激しくわなないて教室中に甲高い悲鳴が響き渡った。
ビクつく脚を更に力強く掴んで笹原は突起を口内に吸い寄せて舌先で細かく揺すり立てる。
「やっ…!んあッあぁぁっ…!」
緩急をつけて刺激し、軽く歯を立てるとひと際大きく下半身が震えて蕾から熱い愛液が一気に溢れ出た。
笹原はそれをわざと音を立ててすすり美園の情欲を貪り尽くしていく。
「ああぁぁっ!もっ…、あ、あぁあっ!イクッ…!!」
あっという間に二度目の絶頂に導かれて美園は背筋を仰け反らせた。
目まぐるしい快感と笹原の体温や息遣い…その存在全てに溺れて狂喜の高波に呑み込まれていく。
「ふああッ!あっあぁあぁぁッ!!」
熱い飛沫を受けながら淫核を舌でくすぐり続け、痙攣が鎮まってきたのを見計らい笹原は再び顔を上げる。
「…やっ…、やめ、ないでっ…!」
ポタリと、上から落ちてきた雫が笹原の頬を濡らす。
真っ赤に染まった顔をくしゃくしゃに歪め、大きな瞳からは止めどなく涙を流して美園は子供のように泣きじゃくっていた。
「まだ足りないよっ…!」
「……っ」
「ひゃッ…!? あっ!!んッうぅぅっ…!」
タガが外れたようにおもむろに身を乗り出して美園の肩を噛み、胸を鷲掴む。
だがそんな笹原の手は初めて美園に触れた時と変わらず弱々しく震えていた。
…まだ駄目だ。まだ繋がらない。届かない。笹原くんの心に触れられない。
どうしてそんなに怖がるの? 私はこんなに手を伸ばしているのに、どうしてわかってくれないの?
もどかしさや悲しみを噛み締めながら美園は笹原の背中に両手を回し彼の小さな身体をぎゅっと抱き寄せる。
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