▼ 操られ人形‐02
「んっ、ぅぅ…!」
一瞬気には留めたものの、欲情しきった美園は行為を中断してまで電話に出る気は起きなかった。
しつこく鳴り続ける電話の存在を掻き消すように更に指を進めて充血した肉芽を摩擦する。
甘い痺れが幾度も体の中枢を駆け抜けて、美園は蕩けた吐息を漏らしながらビクビクと小刻みに全身を震わせた。
…しかし、いつまでも鳴り響く電話の音のせいでどうしても意識が散漫して快楽に溺れることができない。
(しつこいなぁ…っもう)
全く止む気配のないその音に痺れを切らして美園は渋々手を止めて鞄から携帯を取り出した。
(…誰これ?)
画面には見たこともない携帯の番号が表示されていた。
怪訝に思いながらも美園は通話ボタンを押して恐る恐る携帯を耳に当てる。
『……邪魔しちゃった?』
「──っ!?」
一寸の間を置いて聞こえてきたその言葉にドキリと心臓が強張る。
まるで自分が何をしていたのか知っているような口ぶりに美園は思わず部屋を見回した。
当然、人の姿などどこにもない。念のため窓の外を確認しても怪しい人影は見当たらなかった。
『美園さん? 聞いてる?』
自分の名を呼ばれ、美園はますます背筋を凍りつかせる。
けれど相手に怯えを悟られないよう震える胸を押さえ、「あなた誰?」と強めに声を張り上げた。
『誰って…、まぁわかんないか。一回も喋ったことないもんね。美園さんと同じ学校にいる人間だよ。それ以上は教えないことにする』
楽しそうに喋るその声は、少年らしい幼さと微かにかすれて大人びた雰囲気の両方を混ぜ合わせた独特の響きを持っていた。
幼さの方が強いからきっと生徒だろう。…同じ学年? まさか同じクラスの男?
そう考えを巡らせても電話越しの声だけでは何人もいる男子生徒の中から割り出すことはできなかった。
『…で、美園さんは今何をしていたの?』
「はっ…? な、なんでそんなこと…っ」
『オナニーしてたんでしょ?』
唐突な問いかけに顔を引きつらせて息を呑む美園。
恐怖心に侵されていく脳内をクスクスと乾いた笑い声が揺さぶる。
『すごい勢いで家に帰ってったもんねー。そんなに我慢できなかったんだ?』
「…な…っ、なんなの、アンタッ…?」
『なんなのって、だから同じ学校の人間だって。…そんなことより、どこまでヤッてたの? ここは触ってた?』
「きゃあっ!?」
突然、グリッと押されるような感覚が胸に走り美園はとっさに身を屈める。
それは学校で体感したものと全く同じものだった。
『もしかしてもうイッた後?』
「いやっ…やぁあっ!」
今度は割れ目をなぞられ、美園は堪らず床に膝をついた。
緩急をつけて行き交う感触が熟れた肉芽や蕾を抉り、否定することのできない確かな快感がゾワゾワと燻り始める。
「や、だっ…! なんなのこれ…っ? どうしてっ…」
『きっと説明しても非現実的すぎて受け入れられないと思うよ。とにかく美園さんは僕の玩具になったってこと』
「な…っ、あ!っふあぁ!」
更に強く秘所を擦られて美園は突きつけられた言葉を呑み込みきれないまま戸惑いの嬌声を上げた。
『随分反応がいいね。ってことはやっぱもうイッたんだ? 家に着いてからまだ数分しか経ってないのに』
「ちっ、違う…っ! まだイッてな…っ」
『“まだ”? じゃあオナニーはしてたってことだね』
「……っ!」
言い訳ができず、顔を真っ赤にさせて口ごもる美園。
鼓膜を撫でるかすれた笑い声が込み上がる羞恥を一層煽っていく。
『そんなに我慢できなかったなら学校でやっちゃえばよかったのに。…まさか授業中に弄られてそこまで興奮するとは思わなかったよ。美園さんってインラン?』
「ちがっ…、ひァんッ!」
下腹部に走っていた感触が不意に背中へと移り、ゾクゾクッと背筋を駆け抜けた衝撃に美園はひと際大きな悲鳴を漏らして全身を跳ね上がらせた。
『あははっ、やっぱり背中が弱いんだ』
「やっ…やぁあ…っ!やめてっ…ひぁッ!あぅぅ…っ!」
『ねぇ、オナニーの続きしてよ。手伝ってあげるからさ』
「やだ…っ、もう、やめてぇ…っ!」
『なんでそんなこと言うの? 気持ちいいくせに』
「あっ…あ…!ぅう…ッふ、ぅぅぅ…っ!」
美園の情欲を確かめるようにゆっくりゆっくりと背中のラインをたどっていく感触。
けれど美園は唇を噛み締めて声を殺し、自身に言い聞かせるように首を横に振って快感に耐え続けた。
・ ・ ・ ・ ・
美園の家の近くにある人気の少ない公園で笹原は錆びれたベンチに座り人形を弄んでいた。
携帯から絶えず聞こえてくる苦しそうな吐息。
どんなに人形を撫でてもその声は甘い喘ぎに変わる様子はなく、笹原は大儀そうに溜息を一つ吐いて指の動きを止めた。
「頑固だね、美園さんは」
そう言って鞄の中のペンケースから小ぶりのボールペンを取り出す。
そして指にはめていた妖しい指輪をペンに通すと、ペン先で人形の股間をつついた。
「これなら素直になってくれる?」
『ひッ…!? ぅあ、あっ…ああぁっ!』
ズブズブと先端を人形の股間に埋めていくと、途端に受話口から甲高い悲鳴が響いた。
1pほど刺さったところで引き抜き、そして再びゆっくりと埋める。
『ひあっ、あぁあっ! 何…っこれ…!』
「どう? 気持ちいい?」
『やああっ! だめ…っ、あっ、あぁんっ!』
ボールペンを出し入れさせる速度を速めると美園の声は一層大きく跳ね上がった。
笹原は携帯を持ったままビクビクと震えているであろう美園の姿を思い浮かべて楽しそうに笑い、中を掻き回すようにボールペンを緩く回転させる。
『ああぁあっ! あんッ、あ…っあぁあ…っ!』
声を押し殺していた先ほどとは打って変わって、なりふり構わず子猫のような鳴き声を上げ続ける美園。
完全に淫欲に堕ちたのか、それを確かめるために笹原はそっとペンを抜いて勿体ぶるように人形の脚の付け根周りを撫で回す。
「もうやめる?」
『…やっ…』
「ん? 何?」
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