▼ お兄ちゃんの玩具‐01
──ガチャッ
「……っ!?」
ベッドに寝転がって漫画を読んでいたら突然部屋のドアが音を立てて開いた。
慌てて体を起こしてドアを見ると、そこには見たくもない男の姿があった。
「ちょ…っ、勝手に入って来ないでよ!」
「そんなおっかない顔しなくてもいいだろー? …あ、もしかして…、また人に見られたらヤバいことでもしようとしてた?」
黒髪&黒縁眼鏡で見た目だけ頭の良さそうなこの男は何を隠そう私の実の兄だ。
ニヤニヤとムカつく笑みとわざとらしい問いかけに、私は眉間にシワを寄せて苛立ちを露わにしながら声を荒立てる。
「何の用っ?」
「遊びに来た」
「はあっ?!」
「兄が妹と仲良く楽しく触れ合おうと思っちゃ悪い?」
「…っどうせ…ろくでもないことする気なんでしょ」
「ろくでもないことって、何のこと?」
クス…、と勘に触る小さな笑い声と同時に、頭の中であのときのことが鮮明に蘇る。
…今まで味わったことのない羞恥心。
それとは裏腹に、刺激を欲して疼く下半身。どんどん熱くなる体。
『奈津がこんなエロかったなんてなぁ』
耳元に響く囁き声と笑い声。蠢く無数の指…抑えられない欲情……
「…俺の指くわえてあんなによがってたくせに…。本当はまたヤって欲しいんだろ?」
「何言ってんのっ!? そんなわけないじゃんっ…!」
「へぇ? じゃあ今日はあのバイブを使ってお1人様オナニーですか」
「…うるさいっ!」
「また見たいなぁー。奈津が、ふっとーいバイブをメチャクチャに出し入れしてアンアンよがってるとこ」
「……っ」
──…そう、それは一週間前のこと。
『今まで味わったことのない快感!』なんて広告に釣られて私は初めてアダルトグッズのサイトに足を踏み入れ、
そしてそのサイトの中で1番人気と謳われていたバイブを購入した。
数日後、私宛てに白い小包が送られてきた。
私はそれをすぐに注文してたアレだと悟り、そそくさと部屋に持って行った。
ちょうどそのとき家には私しかいなかった。
不安や期待…色々な感情を膨らませて中身を開ける。
透明のケースに梱包されていたのは画像で見た通りの簡素で無機質な桃色のバイブ…。
それを見ただけで私の股間はズクリと疼いた。
興奮を抑えきれない私は早速それを使ってみることにした。
布団の上に座ってスカートをまくし上げ、パンツだけ脱いでバイブを疼くそこに当てがう。
「…ん…っ」
初めはなかなか入らなかったけれど、濡れていくにつれゆっくりゆっくりと硬い玩具は中に沈み込んでいった。
「は…ぁ…っ!」
半分くらいまで入ったところで焦れったさに負け一気に力を込めて押し込んだ。
先が奥深くに突き当ったその瞬間、痺れるような快楽が体の芯を突き抜けた。
「んっ、ん、…あっ…!」
…ハマってしまったら最後。
それから私は夢中になって、熱の治まらない膣内をバイブでかき乱し続けた。
周りなんて見えなくなってしまうくらい、快楽に溺れきって…。
お兄ちゃんが帰ってきて、用事で私の部屋に入ってきたことなんてまるで気付きもしなかった。
・ ・ ・ ・ ・
「いつまでもそんな怖い顔しないで。せっかく新しい玩具買ってきてあげたんだから」
「……っ!?」
忌々しい記憶に意識を捕らわれていたさなか、突然聞こえてきた鈍い振動音に私はハッと我に返って顔を上げた。
漫画や小説で何度も目にしたことのある小型の“玩具”を掲げて、お兄ちゃんは冷ややかな笑みを浮かべていた。
「奈津はこれが何か知ってるよね?」
「……し…知らない…っ」
「えー、知らない? ネットのアダルトショップで『濡れ悶えスーパーアクメバイブ』を購入したのにこれのことは知らないなんて」
「うっさいな!知らないってば!」
「Gスポットに的確にヒットしてどんな女性も無限快楽へと誘う究極の一品と噂の『濡れ悶えスーパーアクメバイブ』は知ってるのにこれは知らないんだー。へぇぇー?」
「あぁーっもう!…ロッ、ローターでしょ!!」
「はい、ご名答! さすが奈津ちゃん、物知り博士!」
舞台役者さながらのわざとらしいはしゃぎ様に苛立ちが一層強まる。
あからさまに不機嫌な表情を浮かべる私。
お兄ちゃんはそんな私を嘲笑うかのように、再び憎たらしい笑みを私に向けて囁く。
「…さて、そんなドスケベ博士な奈津ちゃんに問題です」
ベッドの上で身構えている私の前へ歩み寄り、お兄ちゃんはスイッチを切ったローターを私に差し出す。
「このローター、一体どこに当てるのがベストでしょーか? パンツを脱いで脚を広げて、答えとなる場所にこれを当てて下さい」
「…はっ…?」
愕然として見上げるとお兄ちゃんは相変わらず、人を小ばかにするように涼しげに笑っていた。
『言う事きかないとどうなるかわかってるよね?』
その笑顔はそう訴えかけてるようにも見えた。
「……っ」
唇を噛み締め、私はのそのそとパンツを脱いで脚を開いた。
刺さるような視線を下半身に感じながら、ローターをクリトリスにそっと押し当てる。
「ピンポンピンポンッ。さすが我が妹、大正解! それではご褒美です」
振動を調整するダイヤルにお兄ちゃんの親指が軽く添えられる。
──ヴヴヴーッ
「ふゃっ!! ッ、んんぅっ…!」
緩やかな痺れがその敏感な部分をくすぐり、私はとっさにローターを手放した。
「離したら駄目。そのまま一番気持ち良い所に当ててて」
「ゃ…っ、ん、うぅぅっ…!」
そう言い捨てると、お兄ちゃんはポケットから絆創膏の箱を取り出した。
そこからドサドサと絆創膏の束を出し、一枚切り取って剥がして、微震を続けているローターに貼り付けた。
それから手際よく何枚もの絆創膏を使ってローターがクリトリスから離れないようにしっかりと固定させていく。
「…これくらいで大丈夫かな?」
「…ん…っ、ん、ぅ…っ」
…これから何をする気なの?
不安げに見詰める私を差し置いて、お兄ちゃんは私のタンスの引き出しを勝手に開け中を物色し始めた。
「一番短いスカートってどれー?」
「なっ…んで…?」
「スカート履いて、そのままコンビニ行ってきてもらうからー」
「…は…!?」
「『濡れマン天国』って雑誌買ってきて。宜しく」
「…馬、鹿じゃないのっ?!そんなこと…っ」
「できないの?」
突然低くなった声色に背筋がゾクリと凍る。
お兄ちゃんは笑っている。
だけどその笑顔は冷ややかで、絶対的な制圧感がひしひしと張り詰めていた。
…逆らえば…、あの日の恥ずかしいこと全部、親や友達にバラされる……
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