▼ 淫乱愛猫‐01
土日や休みの日になると私と彼氏の遼は、遼のおじいちゃんとおばあちゃんが昔住んでいた古い一軒家に忍び込んでのんびりイチャイチャしながら過ごす。
住宅街から離れた人気のないこの場所は私達にとって絶好の隠れ家だ。
そして今日も私たちは2人きりでこの家に訪れ、茶の間で持ってきたお菓子やジュースを広げダラダラと寝そべりながらたわいのない雑談をしていた。
いつもと何ら変わりのないほのぼのとした光景。
けれどその当たり前となっただらけた空気を、遼の唐突な一言が変化をもたらした。
「…ねぇ彩、猫になってみない?」
「へっ? …猫って?」
遼の突拍子もない一言に私は軽く動揺しながら体を起こして遼を見る。
「ここにいるときだけでいいから、猫になって欲しいんだ」
「え?え?…っと…猫って、どうすればいいの?」
遼が超のつくほど猫好きなのは前々から知ってたけど…。
私に猫になれって?
何それ、どういうことっ?
頭の中がはてなマークだらけになってポカンとする私に小さな笑みを向けて、立ち上がったかと思うと遼は荷物が置いてある隣りの部屋へ入って行った。
何がなんだかわからないままただポツンと座っていると、遼が自分の鞄を持って戻ってきた。
「…これ。付けてみて」
爽やかな笑顔で私の目の前に突きつけてきたのは、黒いフワフワの猫耳がついたカチューシャ。
…これってつまり…コスプレ…ッ?!
「ぇええっ?! やだっ、似合わないし恥ずかしいよ!」
「大丈夫。彩は絶対似合うよ」
「似合わない似合わない!こんな可愛いものなんてっ…!」
「試しにつけてみてよ。ね?」
「……っ」
どうにも私は遼の笑顔に弱い。
屈託のないにこやかなその顔からただならぬ黒いオーラがにじみ出ているというか…絶対的な制圧感を感じて、気持ちが呑まれて逆らえなくなってしまう。
「ちょっとだけだからね…っ」
私はカチューシャを受け取りしぶしぶ頭につけた。
……なんか変な感じ。
何もしてないのに。ただ猫の耳がついたカチューシャをつけただけなのに…。
胸がソワソワ疼いて鼓動がどんどん速くなっていく。
「ほら、思った通りだ。すっごく可愛いよ彩」
「わゎっ!」
体をぎゅっと抱きしめられたかと思うと、そのまま優しく押し倒された。
見上げた遼の表情はいつになく熱っぽくて…。
欲情を漂わせた瞳に見つめられると、ますます鼓動が煽られて吐息が弾んでしまう。
「にゃー、って鳴いてみて?」
「へっ!? や、やだ…っ!恥ずかしいもんっ」
「そっか…。残念だなぁ」
「ふぁっ…!」
不意に胸元を触られ、思わず体を跳ね上がる。
キャミを一枚着ているだけの無防備な上半身に遼は体のラインをなぞっていくように指をスルスルと這わす。
私はこの焦らすような愛撫が凄く好きだ。
乳首に触れそうで触れないところを執拗になぞられたり、肩や鎖骨を撫でられるだけでゾクゾクと体中が疼いて熱くなっていく。
「ッやあ…っ!」
興奮を高められて固く起き上ってきた胸の突起についに指先が触れる。
きゅっと摘ままれると甘く溶かされた意識が白く瞬くような快感が走り、私は乱れた悲鳴を漏らして体をビクつかせた。
摘まれたまま先をコリコリと擦られたり、指先でピンッと弾かれたり…巧みに動く遼の指に私はただ弄ばれるしかない。
「気持ちいい?」
「ん…っ気持ちいい…もっと触って…遼…っ」
いつものように、わざとらしく悩ましげな表情を浮かべて遼を見上げ、甘ったるくおねだりする。
そうすれば遼は私の願いを素直に聞き入れて私をもっと熱く淫らにしてくれる。
…はずなのに。
強い刺激を与えてくれると思ってた指は突然動きを止め、私の体から離れていってしまった。
「ちゃんと猫の言葉を使わなきゃ触ってあげない」
「…ねこの、ことば…っ?」
「そう。だって彩は今、猫なんだから」
当たり前のように言うと遼はニッコリと私に微笑みかける。
ね、猫の言葉なんて…っ
そんなの、恥ずかしくて言えるわけないじゃんっ!
どうやって誤魔化そうかと必死に考えていると、「ふぅ」と小さな溜め息が聞こえてきた。
起き上がった遼が私に向けてポツリと素っ気なく吐き捨てる。
「言ってくれないなら、もうおしまい」
「…な…っ!」
…嫌っ! ちょっと待ってよ!
こんな中途半端な状態でほったらかされるなんて…!絶対やだ!
もっと触って欲しいっ。もっと気持ち良くなりたい…っ!
「…もっ…」
「ん?」
「もっとシて欲しいにゃ…っ!」
最後の「にゃ」を声に出した瞬間、自分の顔がみるみる熱くなっていくのがわかった。
恥ずかしくて恥ずかしくて、私は耐え切れずに固く目をつぶって遼から顔を背ける。
すると、再びむぎゅうと抱き締められて猫耳を付けた頭をクシャクシャと目一杯撫でられた。
「はぁーー可愛いーっ。よしよしよしよし可愛いねぇ〜」
「ふゎっわ…!ちょ…っもう!撫ですぎだよっ…!」
…こ、こんなにデレデレになってる遼なんて初めて見たかもしれない…。
なでなでされて嬉しい反面、遼の度を越した猫好きっぷりを改めて思い知ってなんだか複雑な気分。
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