▼ 一夜の獣に‐04
「…〜っく、はあっ!…っは、はぁ…!」
体の内側が熱い。
フワフワ浮いてるみたいで力が全然入らない。
何も考えることができず樹さんに身を預けて息を荒げていると、樹さんは私をベッドに寝かせて汗ばんだ私の髪をそっと撫でた。
「…挿れていい?」
「ん…っ」
うん、と答えようとしたのにうまく声が出なくて、私は彼を見上げて小さく頷いた。
樹さんは枕元の先のラックに手を伸ばしてゴムを取る。
ゴムをつけてる間に少しでも身体を落ち着かせようとしたけれど、呼吸を整えることすら出来ないまま私は彼に抱きかかえられてベッドの真ん中に寝かされた。
「ふふっ、大丈夫? ぐったりしてるけど」
「だって…!あんなに…っ!ん、ふぅ…っ」
吐こうとした悪態が重ねられた唇に呑み込まれていく。
ずるいな、と思いつつも私はその優しい口付けに陶酔して甘えるように彼の背中に腕を回した。
「…っふ…! ぁ、あ…っ!」
秘裂に押し当てられた彼の熱が私の内側へと媚肉をこじ開けるようにして沈み込んでいく。
体をとろけさせていた恍惚感が再び荒々しい熱情に変わり、私は込み上がる快感に彼の肩をギュッと抱き寄せて全身をわななかせた。
「ふあッあぁああ!」
指では届かなかった最奥をえぐられ、頭の中が一気に真っ白に弾ける。
あんなに快楽を貪り尽くしたはずなのに、次から次へと貪欲な疼きが腰元からせり上がって身体を熱く淫らに狂わせていく。
「あっあぁッ!ああぁあっ!」
深く打ち込まれるたびに子宮に甘美な痺れが響き渡り、私は子供みたいに彼にしがみついたまま泣き喚いた。
焼け付く衝動に体中の神経がビリビリと騒ぎ立つ。
…ダメ、またイッちゃう…!
「ふあっ!あッ、樹さん…っ私、また…っあ!ああぁっ!」
あっという間に再来した絶頂感に私はなりふり構わずよがりながら彼の背中に深く爪を立てる。
…けれど、私を快楽の頂点へと導いてくれていた荒い律動が突然なだらかな抽挿に変わり、途端に甘痒くなった刺激に身体は戸惑いながら法悦を手放してしまった。
「やっ…あぁ…っ! な、んでぇ…っ」
絶頂を取り上げられ、涙声で不満を漏らすと、彼はクスクスと笑いながら私の耳に優しく噛み付いた。
「結花のイきそうになってるときの声、可愛くて好きだからもっと聞きたいって思って」
「んあっ!! あぁッああぁぁっ!」
耳から注がれる恍惚の快感に打ち震える身体に再び灼熱の刺激を突き込まれ、私はひときわ甲高い悲鳴を吹き上げた。
ヒクヒクと痙攣を続ける秘部を掻き荒らす彼の凶器にいとも容易く快楽の果てへと引きずり込まれていってしまう。
「あっああああっ! ふぁ…っあ、あうぅ…っ!」
なのにまた限界を迎える寸前で熱を奪われ、煮え切らない欲望が脳内や胸の奥をグチャグチャに焦がしていく。
…やだ、イきたい、イきたいっ…!!
「いや…ッああぁっ! 意地悪、しないでよぉ…っ!」
体中の神経が焼け付くされてしまいそうなもどかしさに耐えきれず、私はグズグズと泣きじゃくりながら彼の背中に思い切り爪を食い込ませた。
「そんなにイきたい?」
「ぅあっ!あぁっ、イ…きたい…っあ!」
必死に欲求を喉から絞り出すと、彼に密着していた体を押されベッドに押さえつけられた。
涙で歪む視界に映るのは彼の不敵な笑顔。
樹さんも快楽を感じてくれているのか、その表情にはさっきまではなかった艶っぽさが加わっていた。
それでも瞳から発せられる鋭い威圧感は消えていない。
彼の視線が胸の中にジワジワと浸蝕して、ぎゅうっと甘く締め付け、鼓動を一層熱く重くさせていく。
「ちゃんと俺の目を見ておねだりして」
「…っふ、あ! あ、ぁ…っ!」
狂おしいほどに優しく膣内を犯しながら囁かれた言葉が震える心を鷲掴む。
怖くも悲しくもないのに涙が溢れて止まらない。
もっと欲しい。
もっともっと樹さんに犯されたい。
壊されたい。
苦しいの。満たされたいの。
足りない、もっともっともっと、貴方が欲しい…ッ!!
「お願、い…っ! …イかせて…下さいっ…!!」
「…よく言えました」
グシャグシャになった髪を指でとかされ、涙まみれの頬にキスを落とされる。
そんな慈愛に満ちた行為に心を容赦なく掻き乱され、私は堪らず彼にキツく抱きついた。
「…爪、好きなだけ立てていいからね」
「ふぇ…っ、あ!! あぁ…っんんん!んふ…っんんんーーッ!!」
柔らかな声色とは裏腹に、猛る彼の切っ先が膣内を獰猛に抉り突き上げ始める。
悲鳴を漏らした唇は深い口付けに塞がれ、狂い咲く快感を声に出せない私はその代わりに彼の背を掴む手に歯止めもかけず力を込めた。
「んんっ!ふ、ッうんん!んんぅぅっ…!!」
ゾクゾクと激しい疼きが背筋を駆け上がって脳天で弾ける。
痙攣する恥部は彼の熱に摩擦されるたび歓喜の蜜を吹きこぼし、卑猥な音を立てている。
ずっとイき続けているような果てのない恐悦に満たされ、私は頭の中が真っ白に染まり尽くすまで彼を求め、溺れ続けた。
・ ・ ・ ・ ・
目を開けると、視線の先にはさっきよりも照明の暗くなった高い天井が広がっていた。
…あれ?
何で私布団の中にいるの?
あれっ? 樹さんはっ!?
「……っ!」
まさか私、気絶してた!?
状況を察知して、おもむろに起き上がって辺りを見回すと、樹さんはソファーで煙草を吸いながら動揺している私を見て笑っていた。
「えっと…私…っ」
「30分ほど寝てました」
「30分っ!?」
「何か飲みますか?」
「え、あ…っ、とりあえずお水下さい」
まだパニック状態の脳内にさっきまでの強烈な情事が蘇る。
…セックスで気絶するなんて…どんだけ感じてんだよ私…っ!
込み上がる羞恥に顔を熱くさせていると、「どうぞ」とお馴染みの涼しげな笑顔で、ご丁寧にキャップを開けてくれたミネラルウォーターのペットボトルを差し出された。
「ありがとう御座います…」
恥ずかしさから樹さんの顔をみることができず、あからさまに顔をそらしながそれを受け取って、私は水を一口飲み込んだ。
腰掛けた樹さんの重みでベッドがキシリと軋む。
その音に同調して心臓がドクンッと疼いた。
「ごめんなさい。結花さんが可愛かったので激しくしすぎてしまいました」
「かっ!可愛くなんかないですよっ!」
「いえ、十分可愛かったですよ。特にイかせて下さいと言ったときの表情とか」
「うわーーっ!そんなこと言ってません!」
耳を塞ぐと樹さんはあはははと声を出して笑った。
ドSだ…っ
この人、根っからのドSだっ!
「本当に、凄く良かったです。ありがとう御座いました」
「……っ」
“ありがとう御座いました”
その、事を締めくくるような言葉に途端に胸が痛んだ。
…もうこれで終わり?
さようならなの?
「…結花さん?」
優しい問いかけに、私は未練がましさいっぱいの情けない顔を彼に向けた。
「…また、会ってくれますか?」
恐る恐る想いを吐き出すと、樹さんはあやすように私の頭を撫でてくれた。
「そう言って頂けて光栄です。こちらこそ、わたしで良ければまたお誘いして下さい」
髪を伝って降りてきた指先が震える唇に触れる。
私は当然のことのように口を開いて人差し指を口内に招き入れた。
「…っ…!」
舌を撫でられ、ピクンッと体が跳ねる。
たったこれだけのことで心が震え上がってしまう。
…どうしよう。また疼いてきた…。
乱れる吐息を抑えながら、私は更に指を深く咥え込んで舌を絡めた。
「でもね、結花」
「……?」
不意に届いた声。
“さん”がついてなかったことに一層胸が騒ぎ立つ。
上気した視線を送ると、樹さんは悪辣な雰囲気を漂わせニッコリと微笑んだ。
「次からは手加減してあげないよ」
‐END‐
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